Cha道

Chatworkの「人」「組織」を
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CHROとして、「丸亀製麺」のV字回復を牽引。Chatworkでも、新たな価値を「人事発」で生み出す。

18歳の時に実家の建設業が倒産。中小企業の成長を支援したいとChatworkに入社したCHRO 鳶本。大手外資系コンサルティング企業などを経て、「丸亀製麺」を運営するトリドールホールディングスに入社。コロナ禍を乗り越え、CHRO兼経営戦略本部長を務めた。これまでの人生やキャリアで培ったことを活かして、どのような組織をつくろうとしているのか。詳しく聞きました。

■プロフィール

鳶本 真章
上級執行役員CHRO 兼 ピープル本部長

大阪府門真市出身。日産自動車にてマーケティング領域に従事した後、京都大学大学院でのMBA取得を経て、デロイト トーマツ コンサルティングへ。その後、複数のベンチャー企業での経営支援を経て、2018年にトリドールホールディングスに入社し、同グループ全体の組織・人事戦略をリード。2019年より、同グループ執行役員CHRO兼経営戦略本部長に就任。2023年10月、Chatwork株式会社上級執行役員CHROに就任。

父が経営する家業が倒産。想いとビジネスが両立できることを示したい

――今のキャリアにつながる、原体験のようなものはありますか?

建築業を代々経営する実家で育ちました。祖父が社長を務めていたときは、職人肌の大工が集まった寄合所のような集団でした。「納得の行くまで質の高い建物をつくる」という想いで大工たちが団結していて、年間5〜6棟を心血注いでつくっていましたね。私は「おじいちゃん子」で、職場でよく遊んでもらっていました。トラックの後ろに乗せてもらったり、棟上げ式に出たり、木組みができた建物での宴会をそばで見ていたり。楽しかったですね。

そして、祖父が亡くなり、父が会社を継いで方針転換を図りました。規模を拡大する方向に舵を切ったのです。年間の建築棟数を増やすために、土地を仕入れてきて、アパートやマンションを建てていました。業績は拡大し、社員により多くの給料を払い、私たち家族の暮らしも豊かになりました。父はビジネスの才覚に長けていたのだと思います。祖父の代までに培ってきたものを活かして、会社としての成長を実現しました。ただ、バブルがはじけてしまって、急拡大の反動もあり、倒産してしまったのです。私が18歳のときでした。

このときに感じたことは、今でも自分の中に残っています。祖父も父も、社員や家族に良い暮らしをさせたいと、経営に向き合っていました。ただ、異なる結末が待っていた。想いを持って1棟を建てる大切さと、多くの人に住居を提供するビジネスとしての成長が、両立しなかったのは何故なのか。想いとビジネスは両立できることを証明したい。そのような問題意識が、自分のキャリアの根っこにあります。

コンサルとしての無力感。Excelの数字の向こうに、人の生活があった

――大学を卒業して、どのようなキャリアを歩んできましたか?

ビジネスの全体を見渡すことができて、人の心理を理解する人間になりたいとマーケティング職を希望しました。川上から川下まで一貫して携わり、購買者心理を突きつめることに長けていると感じ、日産自動車に就職したのです。2年間、商品企画やリサーチ、ブランディングに関与することで、専門知識を得ることはできました。ただ、グローバルに展開する大企業では、事業全体を俯瞰して見ることは難しく、MBAを取得するために京都大学大学院へと進学しました。

そして、企業全体の問題解決に携わるために、コンサルティング業界でのキャリアを歩み始めます。IT企業を経て、コンサルティングファームに転職。そこで、キャリアの転機があったのです。

当時、医療機関の再生案件を手掛けていました。経営不振の医療機関を立て直すには、売上を伸ばすことは難しく、コスト削減に注力するケースが多いです。そのコストの大部分は人件費が占めているので、従業員の報酬の減額に踏み込まざるを得ません。ある医療施設の労働組合からは「どういう理由で給料を下げるんだ!命を扱う仕事を何だと思っているんだ!」と強く叱責されたこともあります。

そして、ある日の夜、Excelの試算表を見ながら涙が出てきたのです。従業員の生活を左右する意思決定を、外部の人間がPCに表示される数字を根拠に下すのは、何かが間違っているのではないか。施設を存続させるために、コンサルの自分ができることは他にないのか。父の会社が倒産したときの心の痛みが再燃して、無力感が込み上げてきました。

人件費を見直す前に、しっかりとした経営で会社を強くしなければならない。仮に手を入れるとしても、「なぜ、手を入れるのか」を経営の目線で説明して、従業員と膝を突き合わせて向き合う必要がある。会社の業績を上げることが経営だと捉えていましたが、従業員に働きがいを提供してその家族の生活を守ることにつながる人事も、経営そのものである。会社は従業員に安心と安全を提供する義務がある。そう強く感じるようになりました。

トリドールでCHROに。「3年後、売上を5倍の5000億に」野心的な目標を実現するために

――コンサル以降のキャリアを教えてください。

経営や人事に当事者として関わりたいと、コンサル企業を退職して事業会社に勤めていました。実家が建設業を営んでいたので、建築材料や住居に関する事業を展開する、LIXILに興味を持って入社したのです。その後、トリドールホールディングスで役員を務めていた小林 寛之さんの記事を見て、「この人の理想を一緒にカタチにしたい」と転職しました。その記事の中で小林さんは、「1000億円の売上を、3年後に5000億円に伸ばす」と公言していました。実際にお話しすると本気でその目標を達成しようとしている。ここまで純粋に、成長を追い求める会社に出会ったのは初めてでした。

経営企画部門に入社しました。事業戦略は固まっているので、その実現のための組織をつくるのが私のミッションです。飲食事業の成長のためには、採用や育成、定着といった人事面の施策が大きなウエイトを占めていて、経営と人事が密接につながっていました。その双方のマネジメントを担当するために、2019年に執行役員CHRO 兼 経営戦略本部長に就任。会社のさらなる成長のために、様々な取り組みに着手する中、新型コロナウイルスの感染拡大が始まったのです。

コロナ禍で事業成長にブレーキ。原点回帰のために、5つの"バリュー"を再定義

――コロナ禍では、どのような舵取りを行ったのでしょうか?

事業成長に急ブレーキが掛かったので、事業戦略も人事戦略もゼロベースで見直しました。ただ、私自身はトリドールをもう一段階成長させるには、必要な機会だと捉えていました。注力したのは、ミッション・ビジョン・バリューへの回帰です。それまでは「丸亀製麺」の成長とともに、急拡大を続けてきたので、ミッション・ビジョンを顧みる機会は少なかったように思います。コロナの影響でお客様の来店が減ってしまった今、一度原点に立ち返ってみようと。

具体的には、5つの"バリュー"(トリドーラーズ・バリュー)を新たに定義して、評価制度と採用基準に反映しました。飲食事業の核になるのは店長です。全国の店長に対して、「あなたのお店を通じて、お客様に何を提供したいですか?」「そのために、お店のスタッフに何を働きかけていますか?」と問いかけるのが私の仕事でした。感染対策を行いながら、全国のお店を回っていました。

店長が、自らのお店の目指す姿を言語化して、アルバイトの皆さんに働きかけるようになれば、そのお店は確実に変わります。アルバイトの接客への意識が高まることで、より多くのお客様に喜んでいただけるようになる。アルバイトも働きがいを感じられて、お店を好きになってもらえる。結果として、離職率も下がり、お店の良い状態が継続できるのです。コロナ禍での原点回帰が奏功して、収益のV字回復につなげることができました。事業の未来を見越して、組織や人材の準備をしておくことが、CHROの重要な仕事だと再認識しましたね。

会社のミッションと人の働きがいをつなげて、会社と人を成長させる

――そして、2021年にCHROを退任します。その背景を教えてください。

会社のV字回復が見えたタイミングで、任期が満了したのでCHROを退任しました。外部からジョインした自分がこのまま人事のトップを続けるよりも、現場経験の豊富な後任に譲った方が、この先の成長を実現できるだろうと。私は、飲食業は現場が全てだと思っています。バリューや評価制度などの仕組みを整備しましたが、次は現場経験をもとにしたマネジメントが展開されることで、実務やマインド面での進化が望めるはず。そのように考えたのです。

加えて、「もうすぐ40歳」というタイミングもありました。実家の会社が倒産したときの父の年齢も同じくらいです。そこまでに一定のスキルや経験を身につけて、自分の得意な領域で勝負しようと考えていました。

トリドールでは、コロナで大きな打撃を受けながらも、現場の士気を下げることなくV字回復につなげることができた。店長を中心とした多くの従業員に、苦しいながらも働きがいを感じてもらうこともできた。会社のミッションと人の働きがいをつなげて、会社を成長させる。このようなサイクルを他の会社でも生み出すことで、社会により貢献したい。そう考えて、ChatworkにCHROしてジョインしたのです。

Chatworkへ。ミッションの実現のために、全ての事業戦略が紐付いている会社に、初めて出会った

――Chatworkに興味を持ったキッカケを教えてください。

COOの福田升二さんと話をしたことが、興味を持ったキッカケです。非常にロジカルな方で、隙のない事業戦略を掲げていました。「今後の事業戦略を実行するために、組織戦略がより重要なフェーズに入ります。その立案と推進を任せられる人を探しています」と言われて、自分が貢献できると感じました。そして、CEOの山本正喜さんと面談して、ここまでミッション・オリエンテッドな会社があるのか!と驚きました。Chatworkのお客様は中小企業が中心で、「働くをもっと楽しく、創造的に」というミッションを掲げています。正喜さんの話を聞いて、ミッションの実現のために全ての事業戦略が紐付いていて、自分にとって理想の会社だと感じられたのです。

私は実家が中小企業だったので、ミッションに深く共感できました。父の会社だけではなく、友人の実家の会社にも、成功している会社とそうでない会社がありました。その差を埋めたいとずっと考えていたのです。日本の会社の99%が中小企業です。そこで働く人たちが幸せになれば、その家族も幸せになり、日本全体が幸せに包まれるのではないか。自分のこれまでの人生で考えてきたこと、培ってきたことと、所属する会社のミッションがつながったのは初めての経験でした。

雑務に忙殺され、本来の実力が発揮できない中小企業を間近で見てきた

――Chatworkの事業が、中小企業の働き方を変えていく。そのように感じたのはなぜですか?

雑務に忙殺されていて、本来の実力を発揮できていない中小企業は多いです。私の知人の会社は非常に高品位な製品をつくっていて、国内外の大手メーカー等にも納入実績がありましたが、倒産してしまいました。その知人の会社は、付加価値を生み出す技術力を持っていたのですが、電話やFAXでコミュニケーションを取ったり、紙ベースで資料を管理していて、業務自体の効率化がなされていません。また、社長のご家族が経理を回していたり、人事の専門家も在籍しておらず、営業力にも課題がありました。

これらの作業を効率化したり、人に任せることによって、より付加価値の高い業務に専念できて、業績も成長するのでは、と当時の私は感じていました。そのような状態を、Chatworkが提供するサービスを活用することで、つくり上げることができる。ビジネスチャット「Chatwork」でコミュニケーションを円滑にして、さらに「BPaaS」(Business Process as a Service:ソフトウェアではなく業務プロセス自体を提供するクラウドサービスサービス)やグループ会社の人事労務サービスを導入することで、業務を効率化することもできる。従業員の負荷も軽減されて、幸せな毎日を過ごせる。そのようなイメージを持つことができたのです。

人事部門が事業部よりも事業のことを考える。必要な組織を先んじてつくる

――入社して5ヶ月になりますが、CHROとしてどのような取り組みを行いましたか?

まずは、Chatworkのミッション・ビジョンが実現した組織の状態を定義しました。そして、その実現のために必要な組織体制を再設計しました。CEOの正喜さんと何度もやり取りを行いながら、形にしていくのは楽しかったです。2024年に最も注力する施策を、「ミッション、ビジョン、バリューの浸透」に置きました。450名を超えた会社が、同じ方向を向いて成長するためには必要不可欠ですし、私たち自身が「すべての人に、一歩先の働き方を」というビジョンを体現することで、世の中の企業に対して伝えられるものが生まれると考えたからです。

数々の施策を実行するためには、現場との接点が不可欠。そこで、1on1を頻繁に実施しています。直属のメンバーのユニット長とは毎週、マネージャー陣とは隔週で会話をすることで、課題を吸い上げて様々な施策に活かしています。そこで見えてきたChatworkの強みは、誠実な人が多く、業務上必要な高いスキルや能力を持っていること。課題に感じたのは、一人ひとりの動きが組織内で完結していたこと。組織を超えて連携しながら価値を生み出すことに、躊躇している人もいました。仕事において越境する楽しさを、今後はメンバーに伝えていきたいと考えています。人事部門においては、「事業よりも一歩先を行く動き」を加速させます。トリドールで学んだことですが、事業部よりも事業のことを考えて、成長に必要な組織を先んじてつくるのが人事の仕事の価値だと思っているからです。

CHROという肩書きにこだわりは全くない

――2024年以降の注力テーマを教えてください。

2023年に描いた青写真を、一つひとつ丁寧に実現に移す年です。目指す状態はミッションの実現でブレていません。仮に、変革を行う中で意見の衝突が起きたとしても、ミッションの大切さを自分の言葉で伝えて、メンバーとともに実現できればと考えています。社会貢献性の高い明確なミッションを掲げ、優秀な社員が多く在籍している。このような恵まれた状態で失敗したら、執行役員である自分のマネジメントが拙かったということ。メンバーのせいにはできないと思っています。

CHROという肩書きにこだわりは全くありません。自分の役割を無事に終えることができれば、次の方に引き継ぎたいと思っています。過去のメンバーの頑張りがあってこそ、今のChatworkの成長があります。2020年末に162名だった従業員数は、2023年末には約450名に拡大しました。このタイミングだからこそ、そして自分だからこそ、やれることをやるしかありません。これまでのキャリアにおいて、「人事は人の人生を預かる仕事」と胸に深く刻み込まれました。メンバー全員に働きがいと幸せを感じてもらえる会社にしていくのが、私自身のミッションです。

撮影場所:東京オフィス(WeWork 日比谷FORT TOWER)