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キャディでの新プロダクトの立ち上げを経て、Chatworkへ。中小企業の生産性向上のために、組織横断でカスタマーマーケティングを突きつめる。

Apple日本支社での法人営業としてキャリアをスタート。外資系大企業でのカスタマーマーケティングに従事し、キャディでの新プロダクト立ち上げに関与した後、Chatworkにジョインした松木。中小企業ユーザー向けのカスタマーマーケティングの意義をどのように感じているのか。2児の母としてどのように育児と仕事を両立しているのか。詳しく聞きました。

■プロフィール

松木 綾子
コミュニケーションプラットフォーム本部 マーケティングユニット カスタマーマーケティング部 エクスパンションチーム

筑波大学大学院 生命環境科学研究科 修了後、2009年にApple日本法人現:Apple Japan合同会社に新卒入社。法人営業に携わる。2011年、Thomson Reuters(現:Clarivate)に転職して、学術系データベースの法人営業と営業企画を経験。2020年にSAP Concurに移り、カスタマーマーケティングチームの立ち上げに関与。2022年3月にキャディに転職し、新プロダクト「CADDi DRAWER」の立ち上げに関わる。2023年9月、Chatworkのカスタマーマーケティングチームにジョイン。戦略策定や実行をリードしている。

博士課程への進学を断念。新卒でAppleに入社し、大学向けの営業職に

──自身の進路につながった原体験はありますか?

幼少期は東京都内の団地で過ごしました。小学校低学年の頃です。雑草が生い茂り荒れ放題の緑地があったのですが、農家出身の方が丁寧に手入れをすることで、芝生やお花畑に生まれ変わったのです。その変わり映えに強く感動して、自然や生き物に興味を持つようになりました。高校生時代に、筑波大学の森林での実習授業に参加。そこに生える木々が高度や場所によって徐々に変化する「植生遷移」について学びました。この体験が進路選択に大きく影響し、生態系や植物を深く学ぶために、そのまま筑波大学に進学。修士課程にも進み、森林の植生について研究を続けたのです。研究活動が大好きで博士課程への進学を希望していたのですが、英語での論文執筆が大の苦手で、かつ、研究者のポストは思った以上に少なく、断念しました。

企業への就職活動を進めて、2009年にAppleの日本法人に入社を決めました。iPhoneが発売されて間もなかった当時、主力の製品はMacです。大学など教育機関にMacを提案する法人営業職を募集しており、大学での研究活動にも間接的に触れられると考えて入社を決断したのです。実際に、東京大学のMacの更新に携わることができました。ただ、iPhoneが爆発的に普及する時期とも重なり、経営陣の異動なども影響して、変化が激しい環境でした。目の前の仕事をこなすだけで精一杯の状況になり、研究機関のお客様と中長期的な関係性を築くのが難しく、転職を決断したのです。

育児と仕事を両立させるために、保育園と同じビルに引っ越した

──2011年にAppleを退職して、初めての転職を経験しています。

情報サービスをグローバルに提供する、Thomson Reuters(現:Clarivate)に転職しました。大学時代に同社の論文検索ツール「Web of Science」を愛用していて、法人営業職を募集していたのでジョインしました。Web of Scienceは19世紀から続く老舗サービスで、そのデータベースの検索技術はGoogleの創業にも影響を与えたと言われています。大学や企業の研究機関向けの法人営業を4年間務めたタイミングで、産休・育休に入りました。復職後は営業企画に異動させてもらったのですが、この異動がキャリアの転機になったのです。

営業企画に移った理由は、育児と仕事を両立させたかったから。研究機関向けの法人営業職は出張が多く子育てとの両立は難しい。営業企画職は内勤が中心だから、何とか続けられるだろうと考えました。ただし、自分で希望した異動でもあるので、絶対に結果を出さなくてはなりません。外資系企業では、成果を出せば大きなリターンを得ることができますが、そうでない場合の評価もシビアです。「背水の陣」の気持ちで何としても結果を出す!と覚悟を決めて、育児の負担を少しでも軽減するために、息子を預ける保育園と同じビルに引っ越しました。夫と家事を明確に分担し、実家の母親にも育児を手伝ってもらうことに。万全の体制を整えて、育児と仕事の両面に向き合いました。

営業企画の仕事は初めてでしたが、法人営業職で培ってきた知識と経験が大いに活きました。研究活動の知識を活用して、商材を精緻にアピールするカタログをつくったり、肌で感じていた顧客の要望を基に、営業キャンペーンを企画したり。全力で取り組んだ結果、周囲の期待に応えることができたのです。

「論文の書き方講座」が大ヒット!5,000名を超える大学関係者が聴講

──Thomson Reutersには約9年に渡って在籍しましたが、印象に残っている仕事はありますか?

Thomson Reutersでの集大成となった仕事が、「論文の書き方講座」です。論文の検索サービスを提供する会社が、「書き方」のノウハウを提供するのは前代未聞でした。ただ、私自身が修士課程に在籍していた際に感じた、論文をなかなか書けない辛さは骨身に染みて残っており、同じような悩みを持っている研究者とも多く出会いました。分かりやすく体系化された論文執筆のノウハウを探しているうちに、ある先生の書籍を見つけたのです。これだ!と直感して、その先生にアポイントを取り、論文執筆ノウハウと論文検索データベースの使い方を組み合わせた大学での講習会の開催を直談判。「大学関係者に直接アピールすることで、著書の売り上げにも貢献できると思います!ぜひ、一緒にやらせてください!」と熱を込めて伝えると、「松木さんの言葉に胸が熱くなりました。やりましょう!」と返事をいただくことができたのです。

「論文の書き方講座」は多くの大学関係者にご高評をいただき、オンラインイベントでは毎回1000名以上に聴講いただける人気コンテンツに。会社の売上に貢献できただけではなく、私自身にとっても大きな体験になりました。小学生のときに植生に興味を持ち、研究者を志しましたが、論文を書くスキルが足りずに挫折。非常に悔しい思いをしました。一度は他の道を歩みましたが、研究の世界に自分なりの形で戻ってくることができた。目の前のことに一生懸命に取り組めば、神様は見てくれている。「論文の書き方講座」の成功は、そのようなことを感じた大きな出来事でした。

SAP Concurでは、3つの顧客向けの情報インフラを1年で立ち上げた

──その後は、一貫してカスタマーマーケティングへのキャリアを歩みました。

研究の世界への想いを叶えることができたので、異なる領域でチャレンジしようと、経費精算システムを展開するSAP Concurに転職しました。カスタマーマーケティング組織の立ち上げのタイミングでもあり、新しい体験ができるだろうと。いざ、入社してみたら、経理や財務といったドメイン知識もなく、人間関係もゼロから構築する必要があったので苦労しましたね。自分でもやれることはないかと、周囲から情報をキャッチアップしながら、X(旧Twitter)で取り組みを発信していました。コロナ禍での完全オンラインの環境に戸惑いつつも、Xでの発信が、カスタマーマーケティングという新しい取り組みを社内外に知ってもらうきっかけになりました。

そして、少しずつ周りの状況が見え始めて、キーマンを巻き込めるようになり、1年間で3つの情報インフラ「支援メディア」「テックタッチ」「ニュースレター」を立ち上げることに成功しました。特に注力したのは「支援メディア」です。以前は本国のツールをそのまま日本で活用していて、顧客のニーズにフィットしていない部分も多かった。「私が当事者として改善する!」と覚悟を持ったことで、多くの人に支援してもらえるように。完成したツールも活用いただけて、個人とプロジェクトそれぞれでMVPとして表彰されたのは嬉しかったですね。

キャディに転職。新プロダクトの立ち上げと組織づくりを担当

──そして、2022年3月にキャディに転職して、新プロダクトの立ち上げに従事しました。

事業そのものをゼロから立ち上げることができる。その滅多にない機会に魅力を感じました。担当したプロダクトは「CADDi DRAWER」。クラウドに蓄積した図面データを活用できるプロダクトで、その事業戦略に基づきカスタマーサクセスチームの立ち上げに関与しました。製造業に関する知識はゼロだったので、何とかキャッチアップしながら、食らいついていきました。立ち上げにおいて注力したのは、契約直後の顧客向けオンボーディングです。約2ヶ月間のプログラムをゼロから企画。顧客がサービスを使いこなし、価値をいち早く届けるプロセスの最初の型をつくり上げました。その他にも、四半期毎のOKR運用や採用面接、チームのマネジメントなど、組織の立ち上げに奮闘してきました。

一方で、業務にのめり込むあまりに、家族に負担を掛けてしまいました。2人の子どもを抱えて、夫の仕事が多忙になる中、自分も家族に向き合う必要があると考えて、転職を決意したのです。現在、「CADDi DRAWER」の事業は急拡大して、組織としての規模も大きく成長しました。その立ち上げに微力ながら貢献できたのは、誇りに感じています。

Chatworkでは、事業戦略とカスタマーマーケティングが密接に結びついている

──そして、2023年9月、Chatworkにジョインしました。その経緯を教えてください。

カスタマーマーケティングの活動が、事業戦略と強固にリンクしていることに魅力を感じました。一つひとつの施策をきちんと検証して、次につなげられる仕組みがある。データドリブンで成長に寄与できる点にも惹かれました。加えて、家族に負担を掛けることなく、コミットできる環境であることに安心感を感じて、入社を決めたのです。

カスタマーマーケティングチームのミッションは、ビジネスチャット「Chatwork」の利用を開始したお客様を次のフェーズに進めること。有料アカウントへの移行や「Chatwork アシスタント」などの周辺サービスをご利用いただくことで、お客様により深い価値提供を行うことが、一つのゴールになります。ただ、入社当初は、どこから手をつければいいのか、途方に暮れたこともありました。Thomson Reuters、SAP Concur、キャディでのカスタマーマーケティングは、研究機関の論文検索、経理・財務、製造業のDXのように、顧客の業種や業務が限定されていました。一方で、ビジネスチャットは、業種も業務も絞り込むのが難しい。どのように課題を設定するべきか、正直に言えば悩みましたね。

3年後までの戦略を策定。スクラムを活用して、スピーディに実行に移す

──具体的には、どのようなプロジェクトに携わったのですか?

最大の成果を出すために取り組むべき課題を特定するため、様々な情報をキャッチアップして、施策の効果を金額ベースで試算。得られる想定リターンを可視化することによって、外部との連携がスムーズになり、組織として取り組むべき課題を部門横断で合意できました。課題が整理されたタイミングで、既存のハイタッチのアプローチに加え、ロータッチ・テックタッチ手法をどのように推進するのか、カスタマーマーケティングの向こう3年間の戦略を描きました。

戦略を実行に移す段階では、PDCAのスピードをアップさせるために、スクラムによる管理手法を導入。スジの良い仮説をスピーディに拾い上げ、各部門にも展開していく体制を整えました。最初の成果として、オンボーディングを成功させるための勝ち筋が、取り組み開始からわずか1ヶ月で見え始めたのです。この成果が評価されて、本部内で実施された「2023年下期 クレド*1アワード」で表彰いただきました。

カスタマーサクセスやインサイドセールスとも連携。部門横断でのユースケースを生み出す

──ここまで矢継ぎ早に施策を導入できるのはなぜですか?

やはり事業戦略とカスタマーマーケティング機能が密接に結びついているからです。戦略の実現に資する施策であれば、スピーディに実行できるカルチャーが根づいています。また、メンバーに恵まれていることも大きいです。上司の李さんは、課題の特定から伴走していただき、施策を実行に移す際には、組織を挙げて手助けをしてくれました。カスタマーサクセス部との連携強化の仕組みや、部門横断でユースケースを検証するインフラも整えてくれました。

また、一人ひとりのメンバーも仕事に前向きで、物事を探求する能力に長けています。読んだ本の内容や社外の勉強会で学んだことを常に共有していて、研究の世界に長く身を置いていた私にとっては、非常にありがたい環境です。分からないことがあれば、素直に頼ることができる。自由に企画を立てることができる一方で、論理的に意思決定がなされる。しがらみを感じたこともありません。心理的安全性が非常に高い。このような環境は、これまでに在籍した会社にはなかったように思います。

中小企業の働き方がガラリと変わる。そのリアルを前職でも目の当たりにしていた

──この後は、どのようなことに注力する予定ですか?

とにかくハイタッチでの活動で見つけた勝ち筋をロータッチ化し、夏頃までに全てのお客様に届けたいと思っています。その後は、テックタッチにも力を入れていく予定です。構築したインフラのPDCAを回しながら、より多くのお客様に届けるにはどうしたら良いのか、どのようなUIや情報を提供すれば、次のステップに進んでいただけるのか。試行錯誤して磨きたいと考えています。2024年の終わりには、多くのお客様が「Chatwork」や周辺サービスを自然と使いこなせる環境をつくりたいですね。

──入社後に気づいたことや学んだことがあれば教えてください。

驚いたのは、ビジネスチャットの普及には、まだまだ白地が大きいことです。「Chatwork」などのツールに触れたことのないお客様も多く、電話やFAXのみで仕事を進めている職場もまだまだ残っています。私たちがそのような環境を変えていくことで、企業の生産性向上に寄与して、この国の発展に貢献することができると強く感じました。

キャディ在籍時に支援したお客様で、「Chatwork」と「CADDi DRAWER」を組み合わせて活用することで、仕事の進め方がガラリと変わったのを目の当たりにしたことがあります。その職場では、リモートワークへの移行が一気に進み、お子様のいらっしゃる社員の方がとても喜んでいました。また、製造業においては、コミュニケーションの掛け違いで100万円単位の損失が生じることもあります。チャットで履歴を残すことで、トラブルを防いで業績が向上した話も聞きました。自分の仕事が社会貢献にもつながっている。その実感をここまでリアルに持つことができたのは、初めての経験です。

育児と両立できる働き方を、一緒に考えてくれる会社

──2児の母親としてChatworkで働いて、どのようなことを感じていますか?

子どもがいることによって、肩身の狭い思いをしたことは全くありません。子育て中の男性社員で、お迎えのために16:00〜20:00のスケジュールをブロックしている人もいます。バリバリ働きたい人もいれば、子育てを優先して限られた時間の中で成果を出したい人もいる。働く目的も、支えてくれる環境も、人によって異なると思いますが、それぞれに合わせた働き方を一緒に考えてくれる会社だと思います。子どもの看護休暇やベビーシッター支援など、制度も充実していますし、職場で助け合うカルチャーも根づいています。私自身も、家族で過ごせる時間が増えました。夕食を皆で食べて、団らんを楽しむことができる余裕も生まれました。

──最後に、今後のキャリアについて聞かせてください。

2024年は、30代最後の年になります。来年から40代に突入するので、キャリアの方向性を見定めるための1年にしたいなと。最近は、企業は生き物である、と感じるようになりました。企業の成長過程においては、生物の生存戦略との共通点が非常に多いです。自分自身がその全体を見ながら、指揮できるような立場に立てると、また違った景色が見えると思っています。さらにチャレンジの幅を広げていくべく、今まで以上に成長できるように頑張ります。まずは2024年を、これからのキャリアの土台になる1年にしたいです。

撮影場所:東京オフィス(WeWork 日比谷FORT TOWER)

*1:バリューをもとに、組織ごとに定められている行動指針。松木さんが表彰されたクレドは「速く・小さな一歩を踏み出そう」で、「速く学び、変わり続けよう」というバリューに紐づいています。