Cha道

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リクルート、ユーザベース、Chatwork。3社での成功と失敗を経験。見えてきたSaaSの勝ちパターンとは。

リクルートでの事業企画やマーケティング戦略担当、ユーザベースでのカスタマーサクセスを経て、Chatworkにジョインした李。「PLG(Product-Led Growth:プロダクト主導の成長戦略)」の実現を横串で担う組織の再編を提案して、自らがマネージャーに就任しました。SaaSプロダクトのグロースを長期にわたり担ってきた李に、その秘訣やこだわり、そして今後の展望について、詳しく聞きました。

■プロフィール

李 起虎
コミュニケーションプラットフォーム本部 マーケティングユニット
PLG部 マネージャー

新卒で入社した不動産会社を経て、2013年リクルートキャリア(現:リクルート)に転職。人材紹介事業の事業企画や事業推進を経験後、HRTech領域のSaaSプロダクト立ち上げを経験。マーケティング責任者としてグロース戦略を牽引。2019年にFORCAS(現:ユーザベース)に転職。カスタマーサクセス部門のマネージャーなどを務める。2022年7月にChatworkにジョイン。PLGを横串で担う、新組織のマネジメントを務めている。

街作りに携わるために大京に入社。リーマンショックが起きた

――大学を卒業して、1社目の大京に就職しました。その経緯を教えてください。

大学では都市計画を学びました。その知識を活かして街作りに携わりたかったからです。大京はマンションのデベロッパーとして、新しい街作りや環境作りに力を入れていたので、入社しました。

ただ、当時はリーマンショックの直後でした。就職活動が終わったときにリーマンショックが起こって、「大京は大手企業だから大丈夫だろう」と思っていたのですが、大きく影響を受けていました。マンションの新規開発部門への配属を希望していたのですが、市況が冷え込んでいたので、新人の配属は無し。子会社の管理会社へと出向になりました。築年数の古くなったマンションの修繕を行っている会社で、施工管理を担当。工事の現場に入って、職人さんたちに指示を出したり、進行管理を行うのが主な仕事でした。

もちろん意義のある仕事ではありますが、自分の理想とは遠かったですね。「街作りをしたい」という夢は叶えられず、3年間を悶々と過ごしたのを覚えています。大手ゼネコンに入った大学の同期に久しぶりに会うと、「有名な高層ビルの建築に関与した」「新しい工法でトンネルを完成させた」と華々しい話をしており、大きく差をつけられた感覚で、悔しかったですね。

3年分の「成長の遅れ」を取り戻すために、リクルートへ

――そして、2013年にリクルートキャリア(現リクルート)に転職しました。

とにかく3年分の成長を取り戻したかったのです。大手コンサルティングファームも受けたのですが、個人の裁量が大きそうなリクルートキャリアを選びました。「クライアント企業の経営層に対して、人材系の課題解決を直接提案できる」と聞いたことが、入社の決め手になりました。

入社から1年間は人材紹介の営業を担当しました。顧客の採用課題を把握した上で、最適な候補者をご紹介する仕事です。正直に言いますと、成果を出すことができませんでした。顧客折衝があまり得意ではなかったんです。ストレートに物を言ってしまう癖があって、「この給料では採用できません」「即戦力の採用は難しいので、ポテンシャル人材を採用して育てましょう」のような形で、あるべき論を振りかざしていました。まあ、そんな営業には良い印象を持たないでしょうね(笑)。

ほとんど成果を出せなかったので、「あいつに営業は向いていない」という空気が職場に流れはじめていました。すると、事業企画への異動を打診されたのです。この異動が、人生の転機になりました。数字を分析するのはもとから得意でしたので、営業職よりも企画職の方が合うのではないか、とチャンスをくれたのだと思います。

人材系の大規模SaaSサービスのリブランディングを、社長直下で担当

――そこから現在までつながる、企画職としてのキャリアが始まったのですね。

前職も含めたキャリアで、何も実績を出せなかった人間の可能性を見定めて、思い切った配置転換を行ってもらえた。リクルートの人を活かす力はすごいと今では思います。

人材紹介部門である「リクルートエージェント」のスカウトサービスのリブランディングを行いました。「リクナビHRTech」という人材系のSaaSサービスで、主に採用管理機能を提供するツールを担当しました。サービスのロゴマークを刷新し、リブランディングのためのプレスリリースを考え、マーケティングやセールスも抜本的に見直しました。大規模なSaaSプロダクトを立ち上げ直すイメージでしたね。

仕事に刺激や面白さを感じることができたのは、社会人になって初めてです。当時、「リクナビHRTech」は、リクルートの本丸である人材領域の中でも、最注力のサービス。リブランディングは社長直下のプロジェクトで、組織間のしがらみなく推進できましたね。億単位の予算も投資できたので、責任は重大でしたが、それ以上に刺激に満ちあふれた毎日を送っていました。もちろん、失敗も数多く経験。新聞広告をバーンと掲載したのに、想定通りの効果が得られなかったときは冷や汗をかきました(笑)。

当時の社長や事業責任者とはディスカッションを何度も交わしましたし、周囲の優秀な社員たちと一丸となって、サービスのグロースに本気で向き合えた。その濃い毎日は、その後のキャリアにおいて大きな財産になりました。

さらなる成長を求めてFORCASに転職。初めてのマネージャーに就任したが、、

――大きな仕事を大きな裁量で進めて、世の中からも大きな反響があったかと思います。そんな中で、リクルートを退職したのは何故ですか?

リブランディングの後は、企画やマーケティング業務にシフトしました。5年にわたって事業企画やサービス開発を担当していて、役割や権限がどんどん大きくなっていった。一方で、成長実感が薄れていったのです。企画を起案しても通りやすくなりましたし、問題が起こっても困らずに解決できるようになったため、刺激が少なくなってしまって。「ああ、自分は楽をしてるな」と感じていました。このままでは成長が止まってしまう。そこで、外部の新たな環境に身を投じて、もがきながら苦しみながら自分自身をさらなるステージに引き上げるために、転職を考えたのです。

――リクルートを退職後、マーケティング領域のSaaSサービスを展開するFORCAS(現:ユーザベース)に入社しました。そのときの経緯を教えてください。

リクルートでの仕事は、予算もリソースも潤沢に活用できました。人脈も築けていたので、プロジェクトをスムーズに進めることができた。これらの全てを手放し、またゼロから泥臭く這い上がることで、自分自身が成長できるのではないか。そこで選んだのがFORCASだったのです。当時は40名くらいの規模感で、私は3人目のカスタマーサクセスとしてジョインしました。プロダクトもBtoB領域のSaaSで、前職の知見が活かせるだろうと入社を決めたのです。

顧客接点の中で見えてきた課題を、プロダクトサイドにフィードバックして、解決することも仕事でした。事業開発としての役割も担うので、培ってきたことが活きるだろうと思っていたのですが、甘くはなかったです。入社後ほどなくしてマネージャーに就任したのですが、ここからがしんどかったですね。30歳を超えて、初めてピープルマネジメントにチャレンジしたのですが、上手くいきませんでした。事業に向き合うだけではなく、メンバーにも向き合う必要がある。もともと相手に寄り添うのが苦手で、数字や正論で返してしまう。次第に、メンバーの心は離れてしまい、チームとしての成果も上がらなかった。カスタマーサクセスとしてお客様と直接接することも苦手で、メンバーに対して有益なアドバイスもできませんでした。リクルート時代に営業で成果が出ませんでしたが、原因は近いと思います。

大規模なデータを扱って社会に影響を与えたいと、Chatworkへ

――その後は、どのようなキャリアを歩みましたか?

「自分は何をやりたいのか」を改めて考えてみました。過去の仕事の成果を振り返る中で見えてきたのが、「お客様と直接接するよりも、数字やデータを扱うのが得意」だということ。数字を分析して戦略を立てて、周囲に忖度することなく真っ当にやり切る。そして、大きな事業成長につなげる。そのような強みを発揮できる環境を社内で求めて、別のチームに異動させてもらいました。すると、徐々に成果が出せるようになり、スタッフも増員。チームの状態も良い方向に進んで行きました。

数字やデータを扱う仕事が向いていると気づいて、「テックタッチ(デジタルツールによる顧客対応)」や「ロータッチ(1対nの顧客対応)」による事業成長ノウハウをより追求したくなりました。ただ、FORCASのプロダクトの特性上、セールススタッフの対面営業が重視されます。ユーザベースも素晴らしい会社でしたが、そのギャップを社内で埋めるのは難しく、キャリアの方向性とのズレを感じはじめて、転職を決意したのです。

――そして、2022年7月にChatworkに入社しました。その理由を教えてください。

現在では550万人以上のユーザー*を抱えていますが、その規模感に惹かれたのが1つ目の理由です。「Chatwork」はBtoBtoCのサービスで、ここまで多くのデータを保有しているサービスはかなり稀少です。大規模なデータを扱うことで、リクルート時代のような社会にも影響を与えることができると感じました。もう1つの理由が、急成長のフェーズにあること。中期経営計画で掲げられている、「2024年度に、中小企業向けビジネスチャットでNo.1のポジションを獲得する」という目標に心を打たれました。中小企業をターゲットにしたSaaSサービスは多くありますが、ここまで明確に大きな目標を掲げて、戦略と実行を本気で進めている会社は他には無いと思います。「次の3年間をどこで過ごすと、自分は成長できるのか」と熟考し、Chatworkがベストの選択だと考えました。

*574.1万ID(2022年12月末時点)

PLGを全社横断で推進する。入社半年後に、新組織の立ち上げを提案

――Chatworkに入社後は、どのような業務を担当したのでしょうか?

「サービスの成長のど真ん中で仕事をさせてください」と面接時に伝えたところ、「PLG推進部」に配属になりました。Chatworkは右肩上がりの成長を続けていますが、その核となる原動力が「PLG」です。ユーザー数の増加とアクティブ率を向上させる方針を掲げる中で、「PLG推進部」はその実行を推進する部門横断型の組織です。プロダクトマネージャーやデータ分析チーム、カスタマーマーケティングチームのキーとなる人材で構成されていました。私だけが主務で、他のメンバーは全て兼務という形です。

マネージャーと一緒に、KPIを設置しボトルネックを明らかにして、横断的に解決するのが私のミッションです。各チームから人が集まっているので、目線を揃えるために数字やデータをベースにすり合わせをしていく。方針を決めた後も、日々の数字の状況を見ながら、各部署に必要な支援を行いました。この仕事のプロセスは自分には合っていましたね。リクルート時代に培った、多くのステークホルダーに対するコミュニケーション能力や、FORCAS時代に学んだSaaSメトリクスなど、これまでの経験が大いに活きました。キャリアの集大成のような仕事だと感じています。

2022年7月から12月までの半年間で、PLGモデルのキーとなる指標を見つけ出すことができました。さらに、その指標を伸ばすためのタスクを明確化したのですが、なかなか実行には移れなかった。「PLG推進部」はほとんどのスタッフが兼務で所属しているので、主務の業務の影響をどうしても受けやすい。そこで、「ゴールに向けて一丸となって動くために、主務のメンバーで構成される組織を作って欲しい」と経営陣に提案を行ったのです。

新組織のマネージャーに就任。見たことのないシナジーを生み出したい

――入社後半年で、大幅な組織変更を提案するのは、他の会社ではなかなかできないことだと思うのですが。

Chatworkは、ロジカルで懐の深い会社です。戦略の実現のために必要なことであれば、既存の枠を超えた提案は大歓迎。そのような革新性に富んだ風土が醸成されています。「PLGを推進するために、主務で構成される組織を作るべき」という提案は受け入れられて、2023年1月に新生「PLG部」が立ち上がりました。私がマネージャーを務めることになったのです。

「PLG部」はプロダクトマネージャーが所属する「プロダクトグロース」、既存ユーザーの活性化を推進する「カスタマーマーケティング」、プロダクトマーケティングを担う「PMM」の3つのチームで構成されています。私自身は部全体のマネジメントを担当。経営計画をもとに2023年度の目標を設計し、達成までのロードマップを描き、優先順位を考えながら実行を推進するのが主な役割です。

マネージャーに就任して最初の1ヶ月間は、この戦略を描くために費やしました。それぞれのチームで役割が異なる中で、どのように全体の整合性を取るのか。一人ひとりのメンバーのスキルを最大限に活かすために、どのようなミッションを与えるのか。個人の成長と事業の成長を、どのように紐付けるのか。あらゆる要素を考え尽くしました。ここまで熟考したのは、初めてかもしれません。

そもそもプロダクトマネージャーとマーケティング担当が、同じチームに所属する体制は珍しいと思います。求められる役割は違えど、多くの方に「Chatwork」を使っていただき、実務のシーンで使いこなしてもらうことで、中小企業の生産性を改善する目的は共通している。今までに見たことのないシナジーを組織間で生み出すことで、非連続な成長を達成することが私自身の重要なミッションだと捉えています。

戦略と組織体制が常に一貫しているのが、Chatworkの強み

――Chatworkで働いていて、リクルートやFORCASとの違いを感じることはありますか?

戦略と組織体制が一気通貫でつながっているのが、Chatworkの特徴だと思います。新しい施策を進める中でブレそうになっても、立ち戻れる経営計画や戦略があるので軌道修正ができる。理想論を語るのは簡単ですが、この一貫性を本気で体現している組織は多くはないと感じています。だからこそ、私も新組織の立ち上げを提案できましたし、経営陣も受け入れてくれたのではないかと。

一方で、ピープルマネジメントに関しては、まだまだ得意ではありません(笑)。ただ、自分に合ったマネジメント像は少しずつ見えてきました。旗を立てて皆を引っ張っていくのではなく、同じ目線に立ってメンバー同士をつないでいくスタンスがしっくり来ています。一人ひとりの強みを融合させて、化学反応を起こせると面白いと思っています。

ユーザーを増やせば増やすほど、日本の働き方が楽しくなる

――今後の展望はどのように考えていますか?2022年の入社時には「次の3年をChatworkで勝負する」とおっしゃっていましたが。

正直、あまり先のことは考えていません。目の前のことをやり切りたい思いが強いですね。ただ、長期的には中小企業の生産性を向上させて、この国を支えたいとは考えています。Chatworkのミッションは「働くをもっと楽しく、創造的に」。戦略の実現の先には、このミッションがあります。ユーザーが増えれば増えるほど、日本の働き方が楽しくなる。その大いなる旅路に貢献したいですね。

私自身も、仕事を楽しみ続けることにはこだわっています。「楽しむ」はエンタメ的な意味ではなく、新しいチャレンジをすること、そこで何かを学ぶことを意味しています。止まるのが怖いんですよ。手なりで同じことを繰り返すようになったら、楽しさを感じられなくなる。そうなると、これまで通り、違うポジションを探しにいくでしょうね。幸いChatworkはプロダクトが成長しているだけではなく、周辺事業も拡大しています。そして、自分自身が楽しむことによって、ユーザーも仕事が楽しくなる。これ以上に仕事を楽しめる環境は無いんじゃないか。そう確信しています。

撮影場所:東京オフィス(WeWork 日比谷FORT TOWER)