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ビジネスチャットだけの会社ではない。だからこそ、プロダクトマネージャーとして挑戦する意義がある。

まだプロダクトマネージャーというポジションが一般的ではなかった時代から、同職に相当する働きをし、プロダクト開発に取り組んできた海老澤 雅之。ソニーや日産自動車、センシンロボティクスでキャリアを積んだ後、新たなチャレンジをするため2022年7月にChatworkへと入社しました。海老澤がプロダクトマネージャーとしてChatworkで目指すこととは?

■プロフィール

海老澤 雅之
CTO室 兼 プロダクト本部 プロダクトマネジメント部
兼 インキュベーション本部 プロダクト部

ソニー・エリクソンで携帯電話ソフトエンジニア、アプリ・サービス企画を経験後、ソニー・コンピュータエンタテインメントおよびソニーにて、音楽サブスクリプションサービス Music Unlimited の立ち上げを経験。その後USでPlayStation Networkのプロダクトマネージャーとして、PS4向けビデオ配信サービスやソーシャルサービスなどを担当し、日産自動車に転職。各種サービスのプロダクトマネジメントを手がける。その後、産業用ドローンを活用したソリューションを提供するセンシンロボティクスに転職。2022年7月にChatworkへと入社し、プロダクトマネージャーを務める。

新人研修の打ち上げで経営陣に直訴。自分が考えた機能で価値を届ける面白さを知る

――まずは、プロダクトマネージャーとしてのキャリアのスタートをお聞かせください。

「自分がプロダクトの方向性や機能を考える」という意味で言えば、新卒で入社したソニーの新人研修にさかのぼります。もともと、私のキャリアはエンジニアからのスタートでした。その研修は、自分で新機能のアイデアを考えて、先輩のサポートを受けながら数カ月でプロダクトを開発し、経営層にプレゼンするというものでした。

新人研修とはいえ、価値があると思って開発したプロダクトを、プレゼンだけで終わらせたくなくて。商品化したい旨を、打ち上げパーティで経営陣に直訴しました。そこから、社内のステークホルダーを説得し、周囲のサポートを受けながらプロジェクトを推進しました。携帯電話の部門に所属していたので、携帯キャリアとの調整も自分がメインで行い、入社2年目で商品化を実現しました。これが、自分で考えた機能でユーザーに価値を届ける面白さに目覚めたきっかけです。

しばらくは、エンジニアとして開発リーダーの役割を担いつつ、新人研修をきっかけに企画も担当するようになった機能の検討チームを社内のメンバーを巻き込んで作り、ロードマップを検討する役割も担っていました。しかし、兼業の形でやっていくことに、徐々に限界を感じるようになったんです。そんな折に、商品企画部に異動するチャンスがあり、後者のプロダクトマネジメント系の業務に一本化しました。

この異動は、携帯電話の商品企画担当者に求められる要素の変化によるものでした。入社当時はiモードが出始めたばかりの時期で、商品企画担当者に必要なのは主にマーケティング的なスキルでした。しかし、徐々にインターネット上で利用するサービスが普及し、プリインストールするアプリやソフトウェアの仕様などを商品企画部で考えなければならなくなりました。

それには技術的な知見が求められるため、既存の商品企画のメンバーではうまく対応できず、エンジニアのバックグラウンドを持つメンバーが必要となったんです。そこで、異動の募集がかかり、私が手を挙げたのがプロダクトマネージャーに専任するようになった経緯です。

――携帯電話以外にソニーで印象的なプロジェクトはありますか?

いくつもありますが、たとえば音楽ストリーミングサービス「Music Unlimited」のプロダクト開発です。携帯電話に関する商品企画である程度の経験を積み、次の挑戦をしたいと思っていたタイミングで、仲の良い先輩に誘われたのがきっかけでした。この先輩はソニー時代にとてもかわいがってくださり、いつもやりがいのあるプロジェクトを紹介してくれました。その先輩が「Music Unlimited」のプロトタイプを紹介してくれたんです。「音楽の新しい視聴体験を作るための商品企画をやってみないか」と誘われ、プロダクトマネジメントを担当することを決めました。

そこはCTO直轄でR&Dを担う組織で、エンジニアとデザイナー、誘ってくれた先輩、そしてプロダクトマネージャーである私というコンパクトな編成でした。機械学習を活用してユーザー好みの楽曲をレコメンドする機能をエンジニアと開発したり、音楽のテンポに合わせて変化するグラフィックをデザイナーと作ったりと、いま思い返しても先進的な取り組みでしたね。

10年以上前の当時、世の中はCDや楽曲、アルバム単位でのダウンロード販売全盛でサブスクリプション型の音楽配信サービスはほぼなかったので、楽曲を提供してくれるパートナー探しにも挑みました。その後、ソニーの自社サービスとしてグローバルで立ち上げることになり、それまでこぢんまりとした1部署での開発だったのが、会社全体の事業戦略に組み込まれることになりました。そこからはジェットコースターに乗っているようなすごいスピードで、プロジェクトが変化・成長していきましたね。

海外のパートナーとのやり取りをしたり、社内の多種多様な部署のメンバーと交渉・調整をしたりと、文化も考え方も違う人々と一緒にプロジェクトを推進する必要がありました。それなりに大変な思いもしましたが、当時の経験がプロダクトマネージャーとしての基礎体力を作ってくれたように思います。

その後、アメリカに5年間駐在している間に経験した、次世代ゲーム機のPlayStation 4向けネットワークサービスの立ち上げも貴重な経験でした。もともと、自分は決して英語が得意ではありませんでした。「Music Unlimited」の立ち上げで海外のパートナーと会議をする際には、日本語で熱意だけを伝えて、他のメンバーに翻訳してもらっていたくらいです。そんな自分が、アメリカで上司やステークホルダー、開発チームと合意形成し、信頼を勝ち取って開発を推進して、PlayStation 4の発売に合わせてビデオ配信サービスをローンチしたという事例です。

仕様提示の遅れが原因で、発売タイミングのスコープからドロップしてしまうリスクがあった機能を、リカバリーのために私が途中から引き継いで担当することになりました。ビジネスサイドの要求を汲み取りつつ、ローンチに向けてゲーム関連機能が最優先である開発チームの負担を最小限にできるバランスを目指して、仕様案を作成しました。

出張先だった東海岸のオフィスから私一人で、開発チームの勢揃いした西海岸のオフィスに向けてリモートで仕様案のプレゼンを行いました。会議前は「もうこの機能は発売には間に合わないだろう」という空気だったにも関わらず、滅多にプロダクトマネージャーを褒めない開発のVPが「This is well thought through.(これはよく考えられている)」と言ってくれたんです。その結果、開発チームがアサインされて、その仕様案をベースに開発を推進し、発売に間に合ったことは大きな自信になりました。

それ以外にも、ユーザーからの強い要望がありながら、プラットフォームの根幹を担う機能であるため難易度が極めて高く、長年実現できなかったID関連の機能を担当したこともあります。数年がかりのロードマップを作成・推進して、ゲーム開発者を巻き込んで実現に結び付けました。難易度やステークホルダーの多さ、実現までの道のりの長さという点ではこれを超えるものはほぼないので、「あれができたんだから、なんとかなるだろう」と、難易度の高いチャレンジにも余裕を持って取り組めるようになりました。

日産自動車で“1人目プロダクトマネージャー”に

――次に日産自動車に移られますが、そこではどのような役割を?

1人目のプロダクトマネージャーとして、よりユーザーに価値提供できるようにソフトウェアの開発体制・開発プロセスの改善を行いました。自動車製造の世界では、製品がハードウェアであり、品質問題が人の命に関わるため、ウォーターフォールで開発が進められます。その慣習に倣い、車と接続して使うようなスマートフォンのアプリなども、同じようにウォーターフォールで開発されていました。

車の開発サイクルに合わせてアプリの仕様を数年前の段階からあらかじめ決め、その仕様をきっちり守って開発を進めるという流れでした。さらに、新車発売のタイミングでしかアプリがメジャーアップデートされなかったんです。それを、車両の開発スタイルとは切り離してアプリの開発やアップデートができるように、体制やプロセスも変えていったことは大きな経験となりました。

――この時代に経験されたことで、ご自身のキャリアにとってプラスになったことはあるでしょうか?

まずそれまではマネージャーとしての経験を積んだことがなかったため、組織のマネージャーとして採用からチームビルディングまでを一通り経験できたことで苦労や失敗もありましたが、学ぶことも多くありました。また、IT業界の出身者だけではなく自動車開発しか経験のないメンバーもチームに入れて、そのなかで車作りのドメイン知識とITのノウハウを掛け合わせて、相乗効果を起こすような取り組みがうまくいったのは、自分にとって大きな成功体験になっています。

また自動車メーカーの商品の特性として、一般的なソフトウェアと比較すると車を購入される方は平均年齢が高いです。ITについてのリテラシーがそれほどない人が多く、そういった方々に向けてどのようなUXを提供すべきかなどを考える必要がありました。アプリケーション単体の機能だけを考えるのではなく、車を所有するユーザーの生活そのものを理解したうえでUXを設計するという、広い視野で物事を考えることの大切さを学んだ職場です。

最速でユーザーに価値を届けるために、落ちているボールは全て拾う

――3社目での経験についてもお聞かせください。

産業用ドローンを活用したソリューションを提供するセンシンロボティクスで働きました。初めてのスタートアップ企業であり、かつBtoBのプロダクトを取り扱うということで、多くの新しい経験ができましたね。

また、エンタープライズの企業から中小企業まで多種多様な顧客がいらっしゃり、それらの企業を訪問する機会もたくさんありました。現場の人たちが日々どのような業務をしているかをヒアリングして業務理解を深め、課題を抽出したうえでソリューションを考え、プロダクトの種を作るという業務プロセスでした。

複数の企業のDXに携わったことで、日本企業ではいかにデジタル推進が遅れているかということを、深く理解できるようになりました。その前の職場である日産自動車時代にも、古い業務プロセスのまま改善されていない状況を目の当たりにしていましたが、たくさんの企業で同じようなことが起きていると実感できたように思います。「日本企業の業務を改善したい」という思いは、現在のChatworkでの仕事にもつながっています。

――海老澤さんはこの時代に受けたインタビューのなかで、「プロダクトマネージャーは『何でも屋』であり、関わる部署との間に落ちているボールをすべて拾って物事を進めていくことが大切」という旨をおっしゃっていたそうですね。

これはプロダクトマネージャーとしてというよりは、エンジニア時代からプロダクトを作る人間として大切にしていることかもしれません。私は仕事のなかで「いかにして最速で顧客にプロダクトを届けるか」「どうすればプロダクトの価値を最大化できるか」といったことをいつも考えています。その目的を達成するうえで、特に組織が整っていない事業立ち上げフェーズにおいては、落ちているボールをプロダクトマネージャーである自分が積極的に拾うというスタンスが、最適な選択肢になることが多いためです。

仮にチームに複数のメンバーがおり、適任者がいないタスクが目の前にあった場合に「人を探してチームに追加する」「チーム内の誰かにお願いする」「自分でやる」などの選択肢が考えられます。人を探すのにも他の人を説得してお願いするのにも、時間がかかります。その相手にモチベーションを持ってもらうのも大変です。

それに、たとえばエンジニアならばコードを書くことが専門ですし、デザイナーは良いデザインを作ることが専門ですから、その方々の得意領域に集中してもらうほうが組織全体としてのアウトプットを最大化できます。

そう考えると、何でも屋的なポジションにいる自分自身が、できることは何でもやるというスタンスで行動することが、最良の結果を生むことが多い。だからこそ、落ちているボールを拾う習慣が身に付いているのだと思います。もちろん、後先を考えずに自分がタスクを拾いまくると、業務量が増えすぎてパンクしてしまうことは往々にして起き得るので、業務プロセスを整えるとか、人を追加するなど先のこともセットで考える必要はありますけどね。

「完成したプロダクトを持つ会社」というイメージは一変した

――Chatworkに転職したきっかけを教えてください。

きっかけは転職エージェントからの紹介ですが、それまでにも「Chatwork」というツールの存在自体は知っていました。それなりの歴史があり上場もしているというところで、社員の話を聞く前は「すでにある程度完成しているプロダクトの会社」というイメージだったんです。だからこそ、紹介された時は意外でした。

でも話を聞いてみると、そのイメージは良い意味で裏切られました。プロダクトがまだまだ発展途上にあるとわかったんです。「Chatwork」は2024年までにシェアを拡大し、中小企業No.1ビジネスチャットのポジションを確立することを目指しています。さらに2025年以降はそのシェアを背景として、あらゆるビジネスの起点となるビジネス版スーパーアプリとしてプラットフォーム化していくことを目標にしています。

これらの取り組みに本腰を入れていることや、そのなかで自分自身のスキルを活かせそうだと感じたことが、私がChatworkに興味を持った経緯になります。具体的には、ソニーでのサービスプラットフォームの経験や日産自動車での体制構築、スタートアップ企業でのDX推進やBtoBプロダクトの立ち上げなど、これまでの経験を総合的に活かせそうな環境がChatworkにはあると感じました。

――Chatworkでの現在の役割をお聞かせください。

現在は、プロダクトマネージャーとして、CTO室、プロダクト本部 プロダクトマネジメント部、インキュベーション本部 プロダクト部という3部署を兼任しています。中期経営計画の実現に向け、「Chatwork」の機能をプラットフォーム化してさまざまプロダクト同士を結び付けていく、そしてM&Aをした会社の統合効果を最大化していくといった役割を担っています。

中期経営計画に向けた取り組みの第一歩として、2023年3月に「Chatwork」のID認証基盤の刷新を行いました。「Chatwork」のアカウントを用いてさまざまなプロダクトにシングルサインオンができるようになることや、セキュリティを強化することを目的としています。

実は今回導入したソリューションを、偶然にも前職のセンシンロボティクスで導入していたんですよ。そのときに苦労した経験や手に入れたノウハウを活かすことができました。また、ID基盤などのプラットフォーム領域の仕事は、ソニーや日産自動車でも携わっていました。それらの経験をChatworkで活用できているんです。

――プロダクトマネージャーの目線から見て、Chatworkという会社で働く面白さはどのような点にありますか?

Chatworkは外から見ると“ビジネスチャットの会社”かもしれませんが、実態としては“中期経営計画の実現に向けて多種多様な挑戦をしている会社”です。数百万ユーザーを抱える既存プロダクトのグロースはもちろん、プラットフォーム基盤の構築や新規事業の立ち上げ、M&Aをした会社の統合効果の最大化などかなり幅広いチャレンジができます。入社して良い意味で驚いたとともに、これからさらに事業が面白くなっていきそうで、やりがいがあります。

――海老澤さんのプロダクトマネージャーとしての目標はありますか?

もともと私は、プロダクトマネージャーとしてのキャリアを築こうと思って仕事をしてきた期間はほとんどなくて、「良いプロダクトをユーザーに届けること」「プロダクトでユーザーの生活を良くすること」にフォーカスしてきました。その業務が、結果的にプロダクトマネージャーと後から定義付けされただけなんです。

だからこそ、今後も引き続きユーザーへの価値提供に、しっかりフォーカスしていきたい。Chatworkでの業務を通じてユーザーの働き方そのものを変えていくことが、会社のビジョンと自分のやりたいことがマッチしている状態なのかなと思っています。

撮影場所:東京オフィス(WeWork 日比谷FORT TOWER)