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リクルート、ファーストリテイリング、freee。3社での20年の経験を活かし、VPoEとしてChatworkの未来に向き合う。

リクルートでプロジェクトマネジメントとしてキャリアを積み、ファーストリテイリングやfreeeで業務改革や組織づくりをリードしてきた山崎。ChatworkにVPoE(Vice President of Engineering:開発部門の責任者)としてジョインして、未来の開発組織の設計を担っています。これまでのキャリアで培ってきたこと、プロジェクトマネジメントや組織づくりにおいて大切にしていることを詳しく聞きました。

■プロフィール

山崎 雅志
プロダクト本部 プロダクト開発ユニット ユニット長(VPoE)

新潟県出身。東京工業大学大学院で経営工学を修了し、2002年4月にリクルートに入社。人材領域の営業を経験した後、システム開発部署へと異動。『SUUMO』や業務システムの開発など、数々のプロジェクトのマネジメントを手掛ける。2017年にファーストリテイリングに転職。IT企画・業務改革を担当した後、2020年にfreeeにジョイン。開発部門の組織づくりやプロダクトの品質改善活動などを担当して、執行役員に就任。2023年10月、Chatworkに転職。VPoEとして、組織全体のマネジメントに従事している。

東工大で経営工学を専攻。外資系金融が肌に合わず、リクルートへ

――学生時代の経験で、今につながっているものがあれば、教えてください。

小学校・中学校時代は野球部と相撲部に所属していて、外で体を動かすのが好きな子どもでした。細かいことを暗記することが苦手で、あまり勉強は得意ではなかったのですが、算数だけには唯一興味を持てました。単位の授業で「mm、m、㎟、㎡、m㎥、㎥、1000c㎥=1リットルと、全部を覚えなければいけないんだ、、、」と途方にくれたときに、先生が「一番小さいものを覚えておけば大丈夫。その10倍、100倍になるだけだから」と教えてくれたのです。これは衝撃的でしたね。原理原則や方法論を理解しておけば、その応用で世界を理解できる。そう気付いたのが、算数・数学が好きになったきっかけです。このときに学んだ考え方は、社会人になった今でも、根っ子に残っています。

出身は新潟ですが、東京に出たくて、得意な数学を活かして東京工業大学に進学。経営工学を専攻し、ファイナンスについて学びました。当時はアメリカでヘッジファンドやデリバティブ取引が盛り上がっていた頃です。就職活動では、外資系金融企業を中心に受けたのですが、自分にはフィットしませんでした。複数社のインターンシップに参加し、本選考に進み、懇親会にも参加する中で、根っ子の考え方がマッチしなかった。投資銀行の債券部門の先輩社員が「いい船に乗った者が勝ちだよ」と語るのを聞いて、「自分は乗るよりもいい船を作りたい」と感じたのです。その時点で金融系企業は選択肢から外して、企業研究からリスタートしました。

そこで興味を持ったのが、リクルートでした。常に学生目線で話してくれる先輩社員とのウマが合い、当時としては珍しい「卒業文化」に惹かれたからです。40年間も同じ会社に在籍したくはないと思っていたので、退職をネガティブに捉えない文化も自分には合っていると感じて入社しました。

求人広告の飛び込み営業から、キャリアがスタート。2年後に手を挙げて、システム開発部門へ異動

――リクルートには15年に渡って在籍しましたが、どのような仕事を担当しましたか?

最初の2年間は営業です。人材系の部署に配属になり、ネットや雑誌の求人広告の営業を担当しました。入社3日目から飛び込みを始めて、同じ部署の8名の同期の中で売上トップになったこともあります。ひたすら行動量を担保して成果は上げていたのですが、専門性が蓄積されて可能性が拡がる感覚が持ちづらく、他部署への異動を希望したのです。

異動先は、現在の『SUUMO』を展開している住宅領域のシステム開発部門。当時は、雑誌や無料誌などの紙媒体からネットに切り替わるタイミングで、そのど真ん中に身を置きたかったのです。KPIをモニタリングする管理システムや、媒体のシステム開発を担当しました。紙媒体時代のレガシーなシステムが多く残っていたので、ネット向けに最適化するのは大変でしたが、多くの経験を積むことができました。

プロジェクトマネジメントの方法論に触れたことが、自らのキャリアを変えた

――リクルートでのシステム開発のキャリアの中で、特に印象に残っている仕事はありますか?

転機になったのは、プロジェクトマネジメント専門の部署の立ち上げにジョインしたことです。数々のネット媒体のローンチやリニューアルが行われましたが、当時のリクルートはシステム開発のノウハウが乏しく、システムの不具合やリリースの遅れが生じていました。その状態を改善するために、新しい横断型の組織が立ち上がったのです。

当時はネット化の過渡期で、システム開発は属人的な手法で行われていました。そこに「PMBOK(Project Management Body Of Knowledge)」ベースのプロジェクトマネジメント手法を持ち込み、開発の計画や進捗管理を仕組み化することで、ギャップが可視化されて改善の方向性を全員で議論できる。開発メンバーの作業にも無駄がなくなり、職場のコンディションも著しく改善されました。方法論ひとつで、ここまで変わるのか!と驚いたのを今でも覚えています。

その後は、開発ディレクションのポジションに就きながら、「ITIL(Information Technology Infrastructure Library)」などの方法論を習得して現場に展開しました。多くの開発現場の標準化・効率化に貢献できたと思っています。ただ、40歳を迎えるタイミングで不安が募ってきました。リクルートでは一定の成果を残すことができたが、果たして他の会社でも自分のスタイルは通用するのか。開発の標準化を進めてきたが、自分自身の仕事も型にはまっているのではないか。新たな環境に身を投じて挑戦することが、40代以降の成長につながるのではないか。そのような思いが募り、2017年10月にファーストリテイリングに転職したのです。リクルートに入社して、15年が経過していました。

ファーストリテイリングでは、通訳、本社移転など、あらゆる業務改革のマネジメントを推進

――2017年に転職先として、ファーストリテイリングを選んだ理由を教えてください。

ファーストリテイリングは生活に密着したサービスを世界中で展開していますが、当時はリアル店舗での販売とともに、オンラインでの販売をもう一つに柱にすることと、デジタル活用による全社業務改革を始めた真っ只中でした。ユーザーが触れている部分だけではなく、社内の体制や仕事の進め方も変革している最中で、自分のスキルが活かせると思ってジョインしたのです。

任された業務は、あらゆる業務改革のプロジェクトマネジメント。社内向けの業務コンサルのような仕事で、効率化・標準化できるものを探して、テコ入れをするのがミッションでした。例を挙げると、通訳のアサインの効率化があります。本社では英語での会議が頻繁に開催されていて、通訳が同席するケースも多い。ただ、依頼と派遣の流れが標準化されておらず、各部署からの大量の依頼に対応するため、通訳スタッフを管理する部署がオーバーワークに陥っていました。そこで全行程を可視化して、業務フローとオペレーションを整備することで、業務過多にならずにスタッフを派遣できるように。現場の皆さんからは感謝の言葉をいただきました。

また、六本木から有明への本社移転も担当。一つひとつのタスクの因果関係を可視化し、優先順位をつけて進めるようにマネジメントすることで、大きな混乱もなく進めることができました。その他には、生産部門の業務の標準化にも取り組んだのですが、リクルート時代に学んだPMBOKやITILの方法論が武器になりました。

――プロジェクトマネジメントに携わる上で、リクルートとファーストリテイリングの違いは感じましたか?

カルチャーの違いを感じました。リクルートは、個人が自分の意志で仕事を進める文化です。「お前はどうしたい?」と入社したその日から問われ続けることで、仕事のゴールを個人が設定して自らで実行します。ファーストリテイリングは、経営陣が掲げた方針を、メンバーが形にするカルチャーです。この文化が会社の強みになっていると感じていました。トップが期待する水準を、"理念"や"原理原則"として言語化して、世界中の社員が共通理解を持ちながら実現することで、継続的に急成長を続けられている会社だと思います。

freeeに在籍した3年半は、最も濃密な時間だった

――そして、2020年4月にfreeeにジョインします。超大手企業からの転職ですが、背景を教えてください。

ファーストリテイリングのカルチャーに凄みと敬意は感じながらも、もう一度リクルートのような「個」が主体となる環境で仕事をしたかった。自分自身であるべき姿を描いて、自ら推進できる環境を探していたところ、出会ったのがfreeeでした。

在籍したのは3年半ですが、非常に濃密な時間を過ごすことができました。開発部門の組織づくりや人事制度のリニューアル、プロダクトの品質改善活動、事業計画の立案、M&Aへの関与など、あらゆる機会にチャレンジしました。その中でも最も印象に残っているのは、エンジニアの採用活動です。

私が入社したのは、新型コロナウイルスの感染拡大によって、緊急事態宣言が出されたタイミングです。この年は前年比で数倍の人数の採用を行うことが決まっていたのですが、早くも目標達成が危うい状況に陥りました。転職活動をする人が激減した上に、オンライン環境が整う前だったので、面接を実施することもできない。そのような状態でも、前年比数倍の採用数を達成しなくてはならない。この不利な状況を打開するためには、リクルーターに頼らず、現場を代表して自分がやるしかない、と入社直後に腹をくくりました。

ここでもプロジェクトマネジメントの方法論が大きな武器になりました。まずは現状を可視化することからスタート。エントリーから採用決定に必要なプロセスを細分化し、目標数を設定して実績数字をウオッチしました。オンラインでの面接環境を整え、目標数から必要な行動量を割り出し、週次でモニタリングを行ったところ、最初の四半期できっちりと目標達成のトレンドに乗せることができたのです。また、全ての数字が記載されているモニタリングシートを、上層部へのレポートや部署内でのコミュニケーションの軸に据えることによって、全体の認識が揃って無駄な業務が削減されました。メンバーの業務が確実に成果につながるようになり、自らで業務改善を行う意識が醸成され、採用数が右肩上がりに上昇したのです。

freeeの執行役員から、ChatworkのVPoEに。事業の広がりに魅力を感じた

――2023年10月にfreeeを退職して、Chatworkにジョインします。

freeeでは執行役員として、自分に求められたミッションは達成できたと感じて、新たな環境を探しました。freeeで働く中で、中小企業にサービスを提供するのが好きになりました。世界的なテック企業も中小企業からスタートし、イノベーションを起こせたからこそ、一気に成長できた。日本には様々な中小企業があります。その働き方をアップデートすることで、可能性が開花することにもつながる。そう感じて、Chatworkに興味を持ったのです。そして、freeeは会計ソフトウェアが主力プロダクトである中で、Chatworkはより多様なユーザーが利用するプロダクトを主力としていることに、広がりと魅力を感じました。

現状のChatworkの課題解決のために、自分のスキルが活かせることも決め手になりました。CEO正喜さん、COO福田さん、当時CTOの春日さんとお話ししたのですが、「Chatworkのさらなる成長のためには、採用と組織づくりが鍵になります」と全員から聞きました。これまでに培ったことが活かせると確信して、VPoE(Vice President of Engineering:開発部門の責任者)として入社を決めたのです。

エンジニアの採用と育成のアップデートを皮切りに、Chatworkの進化を担いたい

――まだ入社して間もないですが、VPoEとしてどのような取り組みを行っていますか?

経営陣との1on1を重ねながら、開発現場のマネージャーやメンバーにも話を聞いて、今後の方針を定めている最中です。経営陣との距離は非常に近くて助かっています。何かあればすぐに相談できますし、抽象的かつ本質的な課題についてもフラットに議論できる。CFOの井上さんからは「外部から見たChatworkの課題を教えてください」と聞かれたり、福田さんからは「開発組織とビジネス組織がより深く連携するためには何が必要ですか?」と訊ねられることも。会社の未来をしっかりと考えて、実現に向かって動ける環境ですね。

現状では、メインで取り組もうと考えているのが、採用と育成です。Chatworkはこの3年で社員数が約3倍に増えました*1。今後も右肩上がりで社員数は増えてきますが、現状の採用ペースをそのまま維持すると、現場エンジニアの採用業務に要する工数がかなり増加する見立てになりました。このままでは、本業の時間を奪ってしまうかもしれない。ポイントを明確にして「無駄なく狙って勝てる採用活動」へと進化する必要があると感じています。

また、この数年で採用したメンバーが、きちんと活躍できているかどうか検証することで、育成のポイントも明確になるはず。freeeでも人が育つ環境をつくってきましたが、若手のエンジニアのモチベーションを高めることが大切だと感じています。まだ構想段階なのですが、例えば新卒入社3年でマネージャーやエキスパート(マネージャーと同グレードのプレイヤー)を目指せるキャリアパスも検討中です。

組織の成長や会社のステージに応じて、評価や育成手法はアップデートするべき

――仕組み化や標準化だけではなく、想いや覚悟も大事なのですね。

何らかの変化を定着させるには、仕組みだけでは難しいと思います。人の力が必要です。たとえば、今後、社員数が増えるにつれて、評価制度を見直すタイミングが来るでしょう。制度の条文を見直すだけではなく、魂を込めて運用しないと現場のエンジニアは納得してくれません。新しい制度が日常に定着するまでは3年くらいは掛かると思いますが、その長い期間のコミットが無ければ、絵に描いた餅に終わってしまう。そのような事態は避けなくてはなりません。

freeeでも感じていましたが、組織の成長や会社のステージに応じて、エンジニアの評価や育成手法はアップデートするべきだと思います。CEOの正喜さんからは一言、「プロダクトの価値を上げる仕事を期待しています」と言われています。この視点をぶらさずに、エンジニア一人ひとりの働き方や成長に向き合っていきたいですね。リクルート、ファーストリテイリング、freee。これらの3社で20年を掛けて学んできたこと全てを出し切って、この会社の未来をつくっていきたいと思います。

撮影場所:東京オフィス(WeWork 日比谷FORT TOWER)

*1:2023年9月末時点:442名、2020年9月時点:153名(グループ従業員数)