Cha道

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社長秘書で培った胆力が武器。自ら渦中に飛び込み、エンジニア採用を逆境から立て直す。

「私の武器は胆力です」と言い切るのは、Chatworkのエンジニア中途採用をリードする佐藤。老舗の不動産企業の社長秘書からキャリアをスタート。その後は未経験ながら人事畑に転じ、研修領域での新規サービス開発やエンジニア採用体制の立ち上げなど、猛烈にコミットして高い壁を乗り越えてきた。これまでのキャリアで学んできたこと、Chatworkのエンジニア採用のやりがい、生きる上で大切にしていることなど、詳しく聞きました。

■プロフィール

佐藤 絵里子
ピープル&ブランド本部 HRBP&TA部 Productチーム

大学卒業後、老舗の不動産企業に入社。社長秘書を務める。その後、人材研修会社に転職し、リサーチ、研修企画、新規サービス開発に従事。2020年2月に、画像認識AIを開発するIT企業に入社。エンジニアの採用人事を務める。2022年10月にChatworkにジョイン。エンジニア・デザイナー・PdMのプロダクト人材の中途採用をリードしている。

不動産会社の社長秘書の仕事で、逆境に耐える胆力が身についた

――どのような大学時代を過ごしていましたか?

大学は商学部で、経営やマーケティングに興味を持ちました。グラフィックデザインも独学で勉強していて、浅草の100年以上続く老舗の扇子屋さんに、飛び込みで企画を持ち込んだこともあります。若い人にも手に取ってもらいやすい扇子を企画し、扇子や世界観を伝えるために試行錯誤したり、色んなお店に頼み込んでリーフレットを置かせてもらいました。リスクを恐れるのではなく、とりあえず飛び込んでみる。逆境を恐れない。今でも同じようなスタンスで仕事をしています。

――大学卒業後は、どのような会社で働きましたか?

社会人としてのファーストキャリアは、不動産会社の社長秘書から始まりました。都心の駅前の土地を明治時代から持っている老舗企業です。オーナー家出身ではない「叩き上げ」の社長のサポートを行いました。その社長は仕事の本質について禅問答で問うような方で、本当に多くのことを学びました。諸々の取り次ぎやスケジュール調整を前例にならって進めていたら、「言われたことを言われた通りにそのまま実行するだけでは、秘書として間に入っている意味が無い!ちゃんと自分で考え、判断しないのか?主体性を持ちなさい」と叱られたことがあります。それ以降は、主体性を意識しながら仕事をするようになりました。たとえば、議事録や資料を渡すという単純そうな業務1つでも、全て目を通してから必要そうな関連情報があれば添えて渡す。社長に「お客様やステークホルダーの関係性を想像し、私へ進言することが秘書の仕事だよ」と言われたのは、今でも心に残っています。

また、多くの経営者の方と接する中で、胆力が鍛えられたことも大きかったです。社会人としての経験が浅かったので、社外の方から叱責を受けることもありました。自分の未熟さが悔しくて涙が出そうになったときでも、いただいた言葉の意図や背景を考え、足りないことは素直に反省して次につなげていました。どんなに大変な状況に置かれても、柔軟に何らかの学びに変える。そのようなスタンスは、キャリアを切り拓く上で大きな武器になりました。

精神的な成長を垣間見た研修。人が変わることの尊さを感じた

――不動産会社から、人材研修の会社へと転職します。そのときの背景を教えてください。

誰かをサポートする役割から、自分で何かを生み出す仕事に移りたかったので、転職を決意しました。人材研修の仕事を選んだのは、秘書の仕事で培ったビジネスマナーや逆境をポジティブに変えるスタンスが、教育分野でも活用できると考えたからです。

小売業向けの研修を手掛ける部署に配属になり、全国のショッピングモールを飛び回っていました。店頭で接客内容をチェックしてプログラムに活かしたり、接客コンテストの運営をしたり、お客様である人事や教育部門の方にヒアリングしながら研修を企画したり。非常に忙しい毎日を過ごしていましたが、大きなやりがいを感じていました。研修は人の人生を変える可能性を秘めています。ある企業の新入社員研修では、学校を卒業したばかりの社員に、親御さんへの手紙を書いてもらうワークを行いました。生まれてから社会人になるまでを丁寧に振り返り、これまでの自分を受け入れ、信頼し、多くのことを与えてくれた人を改めて大切だと気づく。感謝の気持ちを自分の言葉で書き表すことは、ポジティブなエネルギーとなります。精神的な成長につながるきっかけを垣間見ることなったこの体験は、その後の仕事に向き合うスタンスに大きく影響しました。

現場での経験を活かして、新規サービスの立ち上げも経験しました。それぞれの商業施設における教育研修の状況を可視化するツールを企画開発。接客状況のリサーチから、研修の企画、受講後のアンケート、顧客に対するレポーティングまでを一気通貫で提供するものです。Webで一元管理するツールを開発したのですが、どこに伸び代があるのか一目瞭然になるので、多くのお客様に喜んでもらえました。Webの知識もサービス開発の経験も無かったのですが、社内外を巻き込みつつ、粘り強く取り組むことで何とか形にできました。

イギリス人のリードエンジニアに、拙い英語で採用活動への協力を要請

――そして、人材研修会社から、AIによる画像解析を手掛けるIT企業に人事として転職します。

転職の理由は、研修の「次」に触れたかったからです。研修を受講した社員の皆さんは、それぞれの会社に戻って学んだことを活かし業務を進めるのですが、その先に触れることはできません。関わった人のその後やキャリアにまで関与したかった。そこで、未経験で人事を担当できる横浜のIT企業に転職しました。

最初にエンジニアの採用を担当しました。現場の責任者がイギリス人のリードエンジニアで、彼の方針のもと採用活動を進めるのですが、海外と日本の採用市場に対する前提が少し違いました。「転職しようと思っているエンジニアはいくらでもいる」「海外では、採用に苦労している会社は少ない」「採用費を掛ける必要は無い」という考えを持たれていたので、日本の採用マーケットの情報をインプットすることからはじめました。英語でのコミュニケーションが求められましたが、私はほとんど話せないので、気迫で伝えることで何とかなりました(笑)。無理難題を言われても、秘書時代に培った胆力で、なんとか食い下がることができたのです。

また、エンジニア採用は、現場社員の協力が不可欠です。リードエンジニアは、採用方針については何とか譲歩してくれましたが、「開発に専念すべきエンジニアに、採用業務をお願いするのは御法度」というスタンスの壁がありました。そこで、さらなる説得を試みたのです。「採用活動を行うことで、自部署の仕事の質が上がります」「プロダクトの魅力、技術を知ってもらうために技術勉強会をしてもらいたいです」「キャリアを考えるきっかけになるので、エンジニア一人ひとりの成長にもつながりますよ」と、拙い英語で何度も伝えたところ、「そこまで言うなら、分かった。ウチのスターエンジニアたちに協力を要請しておく」と首を縦に振ってもらえたのです。

現場のエンジニアたちも、採用活動に対してポジティブな反応を示してくれました。「開発以外で頭を使うのはリフレッシュになるよ」「後輩を育てたい気持ちが強くなった」「自分の技術をもっと社外に発信したいと思うようになった」と、前向きに取り組んでくれて、採用の成果が一変しました。

熱意が伝われば、人は変わる。日々の小さな変化が、大きなうねりになる

――なぜ、難しい状況に対して、そこまで食い下がることができるのでしょうか?

目の前の採用活動に対して、社会的な意義を感じていたからです。エンジニアの人数を増やすことで、より無理なく働いてもらえますし、より良いプロダクト開発につながります。メインで開発していたプロダクトは、画像解析のAIだったのですが、メーカーの工場や建設現場の安全管理に主に使われていて、実際に事故を未然に防げたケースも数多くありました。社会的にも価値が高いプロダクトで、その開発に従事するエンジニアを、心の底からリスペクトしていたのです。彼ら彼女らのためになるのであれば、どんな手段を使ってでも、貢献したいと感じていました。

プロジェクトを進める中で、リードエンジニアの採用や育成へのスタンスが変わっていくことにも、やりがいを感じていました。こちらの熱意が伝われば、人は変わるんだなと。カオスな状況の中で無理難題を受けても、粘り強く対話を重ねることによって、少しずつ状況を変えることができる。どんなに小さな兆しでも良い。日々の変化を積み重ねることで、いずれは大きなうねりになる。そこまであきらめずに継続できる能力が自分の強みだと、この仕事を通じて気づきました。

「インフラ」を開発するエンジニアに貢献したいと、Chatworkへ

――採用人事として約2年半勤めて、Chatworkに転職します。この背景を教えてください。

エンジニアの採用活動をほぼゼロイチで立ち上げたのですが、仕組み化が進んで一区切りついたからです。入社当初から「一人採用人事」として業務を推進していましたが、後任も採用して引き継ぎできるメドがつきました。やはり自分はカオスな状況を求める性格で、新たな場に身を投じたいと考えるようになったのです。

ただ、転職活動を積極的に行ってはいませんでした。とあるタイミングでChatworkからスカウトメールをいただいて興味を持ったのです。メールの文面に書かれていた「コミュニケーションインフラ」という言葉に惹かれたのを覚えています。私は「インフラ」という言葉には弱くて(笑)。安定的に稼働するサービスを提供し続けるためには、並々ならぬ努力が必要です。そのようなサービスに関わるエンジニアには、ずっと憧れを抱いていたので、採用活動や業務環境の改善にチャレンジしたいとChatworkに入社を決めたのです。

――2022年10月にChatworkにジョインして、どのような業務を担当したのですか?

前職と同じく、エンジニアの中途採用を担当しています。入社当時は前任の方が産休中だったので、前職と同じくエンジニア領域においての「一人採用担当」からスタートしました。全社では1年間で約100人のペースで増員していたフェーズでもあり、難易度の高い採用にチャレンジできることにワクワクしたのを覚えています。

まずは、アップデートが止まっていた部分を繋いでいくことから開始しました。アクティブになっている求人媒体はどこか、優先的に着手しないとボトルネックになる部分を見つけ、オペレーションを最適な形にアップデートしていく。根気が必要な場面もありましたが、整っていないカオスな環境こそが自分が求めていたもの。「DevHR(Developer Human Resources)」という人事や採用のプロジェクトを横断で統括するバーチャル組織のメンバーと連携しながら、手探りで進めていきました。

前職では転職エージェントとのお付き合いがなかったので、各社とのコミュニケーションもゼロから学びました。関係性が構築されていない期間でも毎月途切れることなくご紹介いただいていたり、どんなポジションでどんな候補者さんを紹介してくれたかを1社1社過去の情報を遡って確認することからはじめました。選考フィードバックを可能な限り細やかに、スピーディにお送りしたり、小さな工夫を重ねていたら、数社のエージェントの担当者が積極的に協力してくれるように。少しずつ自社にフィットした紹介と入社決定が増えはじめました。採用媒体を扱う企業とも、ゼロから関係性を構築していきました。密なコミュニケーションをコツコツと行い、小さな変化を積み重ねていく。そのスタイルが奏功して、一定の成果に結びつけることができたのです。

内定承諾を得られずに苦戦。内定辞退者に「ぶっちゃけ、Chatworkの選考はどうでしたか?」

――その後は、エンジニアの採用業務は順調に進められたのでしょうか?

いえ、そんなに甘くはありませんでした。すぐに新たな壁が立ちはだかったのです。自社にフィットする魅力的な候補者さんに多く出会えるようになったのですが、今度は内定オファーを出しても、なかなか承諾してもらえないことがありました。当時の承諾率は、過去最低の水準まで落ち込みました。多忙なCEOやCTOも巻き込んで、採用候補者を口説きに行ったのですが、辞退が続いてしまったのです。

役員に対しても、現場のエンジニアにも、このままでは申し訳が立たない。もっと必死に、採用活動の課題に向き合おうと、内定辞退者に面談を申し込みました。自社を選んでもらえなかった理由を率直にお聞きすることで、正直、傷口をえぐられるような思いにもなりました。しかし、忙しい転職活動において、Chatworkへの入社を最後まで検討してくれたことへの感謝と、いつかご縁が結ぶようにと前向きな気持ちが勝りました。このようなお願いをする採用担当者は少ないとは思いますが、現状を少しでも改善したい想いだけで、一人ひとりの辞退者に面談をお願いしました。

辞退者からの指摘に素直に耳を傾け、採用フローを大幅にアップデート

――辞退者への面談依頼に対して、反応はいかがでしたか?

結果、多くの辞退者が面談に応じてくれました。「ぶっちゃけ、Chatworkの選考はどうでしたか?何でもおっしゃってください」とお願いすると、丁寧に答えていただきました。そこで2つの問題点が浮かび上がってきたのです。

1つ目は、Chatworkの魅力が事実として伝わりきっていないこと。他社に決めた入社理由を伺うと、Chatworkでもチャレンジできる業務、Chatworkにもある制度や近しいチーム体制を挙げる方が意外に多かったのです。2つ目は、候補者への熱意の伝え方が他社の方が優れているということ。Chatworkの役員陣も「Chatworkにぜひに来てほしい!」と熱心に伝えていましたが、それ以上にあの手この手で想いを伝えていたケースが見られました。そこまでやるのか!と私自身も驚いた事例が幾つかあり、多くのヒントを得ることができました。

これらの課題をもとに、採用プロセスを全面的に見直しました。その名も、「狙った獲物は逃さない作戦」(笑)。候補者一人に対して、役員と現場エンジニアを数名アサインして「アトラクトチーム」を結成。グループチャットを一人ひとりに設定して、常に状況をアップデートしながら最善の策を打てるように。早い段階から役員に会ってもらい、現場エンジニアからも細かい情報提供を行う。そして、採用担当は選考が円滑に進むように社内を調整し、候補者に対しては不安を払拭するために寄り添い続ける。まさに全社のリソースを結集した「スクラム採用」を実践したのです。多くの人に協力してもらえた結果、内定承諾率は大幅に回復。現在は過去最高の水準で推移しています。

フルリモートで働きながら、自宅では保育園児の息子に寄り添う

――息子さんがいらっしゃいますが、Chatworkでの働きやすさは感じていますか?

中途採用の業務はフルリモートで行っていて、1度も出社しない月もあります。息子は保育園に通っているのですが、不測の事態が起こったときにも自宅で寄り添うことができています。喘息持ちなので、悪化しそうなときには早めに対処できるのは、非常に助かっていますね。さらに、毎日オフィスに出勤する必要が無くなったので、私自身の“時間の余裕”ができたのも、家族にとって大きくプラスになっています。「今日は保育園で何を作ったの?」「(お友達と喧嘩したときには)どうしてだろうね?」などと、息子との会話の時間を多く持つことができました。また、私が自宅で仕事をしているのを息子が見ていて、「ママ、仕事楽しい?」「画面に向かって話すのは、YouTuberみたいだね」といったコミュニケーションも生まれています。

制度としては、延長保育の金額の半額を会社が負担してくれたり、息子を急きょ病院に連れて行くことになった際には、1時間単位で「子の看護休暇」を申請できるのはありがたいですね。パートナーからも「本当に良い会社に入ったね」と言われます。

恩は「返す」のではなく「送る」。自分が受けた恩を拡げて、次の世代に貢献したい

――Chatworkでエンジニア採用に携わるモチベーションは、どのように感じていますか?

「Chatwork」は、中小企業で働く皆さまのコミュニケーションインフラとして、日々の仕事の効率化を提供しています。今後の長期ビジョンとしては、「ビジネス版スーパーアプリ」を掲げており、ビジネスチャットを起点にした新たなサービスも展開していく方針です。より多くのお客様に、より幅広く役に立つ。そのようなサービスに進化するためには、エンジニアの活躍が不可欠です。「Chatwork」の開発に携わるエンジニア、デザイナー、プロダクトマネージャーの皆さんを心の底から尊敬していますし、日々の業務をサポートするために、自分ができることは何でもやりたいと思っています。

――ご自身の今後のキャリアはどのように考えていますか?

これまでも、目の前のことに必死に食らいつく人生を送ってきたので、将来のキャリアのイメージは明確に持っていません。置かれた環境で求められることがあれば、採用や人事の業務にかかわらず、何でも取り組んでいきたいです。

ただ、最近よく考えるのが、次の世代のために活かせる何かを残したいということ。Chatworkは「働くをもっと楽しく、創造的に」というミッションを掲げています。世の中の働き方をアップデートし続ける。だからこそ、自分の成果を次の現役世代のためにブリッジしていく必要があると思っています。

私は「恩送り」という言葉が好きです。誰かに何かを与えてもらったら、その人に直接返すのではなく、別の人に送る。受けた恩を他の誰かに送ることで、めぐりめぐって皆が良くなる世界になると信じています。いま、振り返ってみても、最初に勤めた不動産会社の社長、研修会社時代のお客様や上司、前職の外国人リードエンジニア、そしてChatworkの皆さんから、多くの恩を受けてきた実感があります。これまでに与えられてきたものを、次の世代に引き継ぐこと。これから生きる上でのミッションです。

撮影場所:東京オフィス(WeWork 日比谷FORT TOWER)