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富士通、リクルートで培ったビッグデータのスキルで、中小企業を元気にしたい。

東大工学部では、半導体を研究した池田。一人で進める研究よりも、チームでの問題解決の場に身を置きたいと、富士通に入社しました。ビッグデータを活用するシステム開発に従事しましたが、ユーザーの顔が見えないことにもどかしさを感じ、リクルートに転職。そして、社会のためにデータを最大限に活用する手法を確立するために、Chatworkへ。データソリューションマネージャーとして、どのようなキャリアを歩んできたのか、そして、何にこだわってきたのか。詳しく聞きました。

■プロフィール

池田 裕一
ビジネス本部 クロスファンクションユニット
事業企画部 マネージャー

神奈川県出身。2011年に東京大学大学院 工学系研究科を修了後、富士通にシステムエンジニアとして入社。ビッグデータを活用した、車載向けの「渋滞予測システム」を開発。2014年にリクルートテクノロジーズ(現:リクルート)へと転職して、人材系サービスのレコメンドエンジンの開発を担当し、マネージャーに就任。2021年12月Chatworkへジョイン。データソリューションマネージャーとして、事業へのデータ活用を推進している。また、副業として、前職の知人たちと立ち上げた会社「ミラセンシズ」のCOOも務めている。

半導体の研究からIT系に転身。富士通に新卒入社し、ビッグデータを扱うエンジニアに

――学生時代には、どのように過ごしていましたか?

小学校・中学校・高校ではサッカー、大学ではテニスに打ち込みました。10年以上にも渡るスポーツの経験で得たものが、ファーストキャリアにも影響しています。大学では精密機械工学科に進学して、半導体の研究を専攻しました。大学院では、実験室を真っ暗にして、レーザー光を使った計測技術の研究を行っていました。一人でもくもくと作業をするのは肌に合わず、スポーツを通じての「チームで目標を達成するプロセス」が好きだったので、就職では別業界を志望したのです。

2011年4月、大学院を修了して富士通に入社しました。多くの人たちと関わって、チームでプロジェクトを進めるシステムエンジニアを志望したのです。データによって世の中を便利に変えられるということに面白さを感じ、入社時の配属面談で「経験はないですが、ビッグデータを扱える部署を希望します」と伝えたところ、テレマティクス系の開発チームにジョインすることができました。この最初の配属以来、ずっとデータ関連の仕事に携わっています。あの面談での一言が、自分のキャリアを決めてしまったのは、今思うと感慨深いですね(笑)。

入社3年で、交通データを活用した「渋滞予測システム」を開発

――富士通では、どのような仕事を担当しましたか?

研修を経て、部署への配属初日に、メンターから指示を受けました。「3ヶ月後の展示会に向けて、ひとりで製品デモのアプリケーションをつくってくれ」と。何だこの会社は!?と驚きましたが、要件定義→設計→開発→テスト→運用を経験して、社外向けの展示会でお披露目することができました。入社直後のタイミングで、この一連の流れをやり切れたのは、大きなプラスになりましたね。新人にもかかわらず、一定の規模の仕事を任せられるようになったので。

そこから約3年間は、そのメンターも含めた3人のチームで、渋滞予測システムの開発に携わりました。カーナビに搭載されて、渋滞を回避できる経路を割り出すためのものです。「VICS」と呼ばれる道路のセンサー情報と、富士通が提携しているタクシー会社のデータを活用して、過去の傾向から渋滞を予測するシステムを開発しました。コアな技術はすでに確立していたので、その応用と顧客向けのカスタマイズに力を注ぎました。クライアント企業から仕様変更を要求されながらも、何とか納品できた達成感は今でも忘れません。未経験からのスタートだったので、あの若い年次で大規模システム納品を経験できたことは、大きな成長に繋がったと感じています。アサインいただいた上司やメンターにはとても感謝していますね。

エンドユーザーの気持ちにどうしても触れたい

――富士通に入社してから3年で転職を決意しましたが、その理由を教えてください。

渋滞予測システムの開発をやりきったが故に、疑問に感じることがありました。必死になって開発したものが社会にどう役に立っているのか、実感できなかったのです。クライアントに納品したシステムは、カーナビに搭載されます。そして、ドライバーが日々の運転中に活用するのですが、運転をどれだけ効率化できて、ドライバーの気持ちがどう変化しているのか。これらのユーザー体験には、どうしても触れることができません。富士通はシステムのベンダーですので、自動車メーカーが保持する詳細な走行データにアクセスできませんし、ドライバーに直接話を聞くわけにもいかない。もどかしかったですね。(この話をリクルートの人にしたら、「どうして自分で車を買って検証しなかったのか?」と詰められましたが。笑)

そこで、自社でデータを保有していてユーザーとの距離も近い、インターネット系企業への転職を考えました。幾つかの会社を検討して、入社を決断したのがリクルートテクノロジーズ(現:リクルート)です。リクルートグループのシステム開発やデータ活用を担う、ITに特化した関連会社に、2014年4月にジョインしました。

人材系サービスのレコメンドエンジンを開発。ユーザーのアクション率を大幅向上

――リクルートテクノロジーズでは、どのようなプロジェクトを手掛けたのですか?

「リクナビ」「リクナビネクスト」「リクルートエージェント」「リクルートスタッフィング」など、人材系サービスのデータを扱うチームに配属になり、そのうちの1サービスでレコメンドエンジンのPMを任されました。ユーザーが各社の求人情報を閲覧する際に、ユーザーにパーソナライズされた「オススメの求人」を自動表示させるものです。

以前は、レコメンドのアルゴリズムとして「協調フィルタリング」が活用されていました。「協調フィルタリング」は、対象者の嗜好に合う情報を、過去のデータから推察して提示する手法です。私が担当したサービスでは、それぞれの企業を幾つかの要素で分類して、ユーザーがアクションした企業に近いものを表示させるロジックを組んでいました。ただ、まだまだ改善の余地がある状態で、当時のメンターから「面白い技術があるよ。ちょっと検討してみない?」と紹介いただいたのが、「word2vec」という技術でした。Googleが開発した自然言語処理の技術で、単語と単語のつながりから、次に来る単語を導き出すものです。このアルゴリズムを、ユーザーの行動履歴データに適用しました。たとえば、A社に応募して、B社のページを見ているユーザーに対して、興味を持つ可能性が高いC社をレコメンドする、というような一連の流れをつくりだせるのではないかと。ユーザーの行動履歴データを用いて、何度も何度も試行錯誤しましたね。

その結果、旧レコメンドエンジンに比べて、ユーザーのアクションが大きく変化したのです。明らかに違いが見えたので、嬉しかったですね。しかも、ユーザーの行動履歴のみを参照するので、個人を特定しうる情報には一切触れずに実装できることも、メリットとしては大きかった。人材系サービス以外にも導入が可能で、リクルートの他領域のサービスにも展開を図りました。おそらく、「word2vec」を行動履歴に活用したレコメンドエンジンの事例は日本初だったと思うのですが、今では多くのサイトに導入されているので、特許でも取っておけば良かったな…と(笑)。

面接支援ソリューションを開発して、特許を取得

――そして、2017年にマネージャーに就任しましたが、このときのことを聞かせてください。

レコメンドエンジンの開発をはじめとした取り組みを評価していただき、10名前後のチームのマネジメントを任せられました。初めての経験で、プレッシャーが大きかったですね。メンバー全員が優秀なので、「能力を発揮できる機会をつくらなければ」と常に意識していました。そこで、様々な新しいテーマを持ち込むようにしました。たとえば、これまでデータソリューションが導入されていないビジネスプロセスに入り込んだり、海外のスタートアップと協業したり、営業同行して企業における面接の課題をヒアリングし、面接支援ソリューションを自社開発したりと、新しいことは何でもやってみましたね。面接支援ソリューションは、候補者の特徴を要約して面接官に伝えることで面接の質と効率を向上させるシステムで、複数の企業に導入をすることができました。テキスト解析技術を用いてレジュメから面接でヒアリングすべきポイントを指摘することで、面接の品質を高めることができ、特許を取得するに至りました。

もちろん、そこまでの苦労はありました。リクルートには「自由に仕事ができる」というイメージで入社してくる人も多いのですが、「好きなことをやるからには、責任を伴う」「技術を突き詰めるだけではダメで、社会に実装してこそ意味がある」とメンバーには伝え続けました。

マネージャー業務の中では、メンバーのために努力する楽しさを初めて感じることができました。スキルを最大限に発揮できる機会を提供して、成功体験を積んでもらう。そして、成長してもらう。メンバーが社内のイベントで表彰されている姿を、目の前で見られたのは嬉しかったですね。

自分でプロダクトを開発するために、副業でリクルートの先輩と会社を立ち上げ

――副業として会社を立ち上げたと聞いています。その背景を教えてください。

リクルートテクノロジーズに入社した約1年後、副業として、新しい会社を立ち上げました。入社当時のメンターと先輩、そして私で、AI・機械学習関連の新会社「ミラセンシズ」を設立。7年経った今でも創業メンバーの3名で運営しています。リクルートでの仕事は面白かったのですが、自分たちでプロダクトをつくって社外に販売する経験がしたいと、「ミラセンシズ」を立ち上げたのです。

現在はドキュメントを校正・校閲するソリューションを提供しています。私自身はCOOとして、バックオフィスとセールス・カスタマーサクセスの役割を担当。本業とは全く違う業務を経験しながら、手触り感を持って、プロダクトをつくって育てるのは本当に楽しいです。また、「ミラセンシズ」での会社を運営している経験は、本業にも活かすことができているので、一石二鳥ですよね。2021年12月には、「Plug and Play」が運営するスタートアップのアクセラレータープログラムに採択されました。これからも、着実に成長できればと思っています。

30万社、500万人以上のユーザー。データ活用の大きな可能性を求めて、Chatworkへ

――そして、2021年12月にChatworkにジョインしました。その理由を教えてください。

2つの理由があります。1つ目は、データ活用で携わる領域を広げられること。リクルートでは人材系の様々なサービスに関わりましたが、担当業務はレコメンドの運用や改善に特化していました。データ活用をビジネスに活かすシーンは、データサイエンスが全てではありません。データ基盤の整備や、その前段階のデータアナリティクスも大切ですし、そもそもどのようなデータを取得するのか、データマネジメントの領域にも踏み込みたかった。一人のデータソリューションマネージャーとして、Chatworkという会社の成長に合わせて、データに関わる業務に幅広く関わる機会を得ることができるのは、大きな魅力だと感じました。

2つ目の入社理由は、データ活用による事業のレバレッジが非常に大きいこと。「Chatwork」は、私が入社した時点で30万社を超える企業が導入*していました。この社数は、自分が関わっていたリクルートの人材系サービスよりも遥かに多い。かつ、当時から450万人以上のユーザーを抱えていて*、豊富な行動データも有している。データ活用の規模感が圧倒的に大きいのです。さらに、当時のビジネスチャットの普及率は15%ほどで**、特にChatworkが得意としている中小企業には白地が大きいと感じました。

加えて、「2024年に中小企業No.1ビジネスチャットになる」という中期経営計画を掲げていたこと。2025年以降は周辺サービスも含めた「ビジネス版スーパーアプリ化」を果たし、あらゆるビジネスの起点となるプラットフォームを目指す。これだけの大きなマーケットに対峙し、ここまで急角度で成長を宣言している会社は、他にはありません。その成長の過程で、データ活用が大きな意味を果たす。そして、日本の中小企業が元気になることにもつながる。そう確信して、入社を決意したのです。

3人でBIチームを立ち上げ。データ活用で、施策数と成功確率を最大化させる

――Chatworkでは、どのような仕事を担当してきましたか?

営業やマーケティングなどが所属するビジネス本部内に、データを活用したBI(ビジネスインテリジェンス)チームを立ち上げ、社内オペレーションの最適化を推進するのがメインの仕事でした。ちょうど同時期に入社した2人のメンバーとともに、まずはチームのコンセプトを議論するところから始めました。何のために自分たちの組織があるのか、何度もディスカッションを重ねて、自分たちの意志でミッションを策定しました。このプロセスでは、副業での会社設立の経験が活きましたね。

掲げたミッションは、「Chatworkの戦略実現に向けて、施策数と成功確率を最大化する」というものです。さらに、その実現のために、3つのビジョンを設定しました。「①事業の健康状態を定量的に把握する ②施策の実施をデータドリブンで意思決定する ③簡易な分析は各部署の現場で行えるようにする」の3つです。

現段階で注力しているのが「①事業の健康状態を定量的に把握する」です。「Chatwork」のユーザー数は500万人を超えました*。ただし、どんなユーザーに利用いただいているのか、全てを捉え切れてはいません。ユーザー理解の解像度を上げて定量的に把握することで、営業やマーケティング、カスタマーサクセスのシーンで活かせると考えています。リクルート時代と同じく、行動履歴のデータ活用も推進する予定です。たとえば、ユーザーがどのようなシチュエーションで、相手をチャットに呼び込むのか。逆にやりとりしなくなるのか。そのような行動のトリガーを詳細に分析することによって、有料化や継続率の向上につなげたいと考えています。

アクティブ率をスコア化し、商談の成功率の向上につなげられないか

――今後注力するポイントは、どのように考えていますか?

先ほどのビジョンの中の「③簡易な分析は各部署の現場で行えるようにする」の部分です。私たちのチームでは「分析スキルの民主化」と呼んでいます。エンジニアやPMなど、プロダクト部門も含めて、事業運営に携わる全てのメンバーが使えるデータを、どのように整理するのか、試行錯誤している最中です。各部門と、どのようなデータを揃えて、どのようなソリューションに結びつけるのか、議論を始めました。たとえば、セールス部門とは、営業スタイルについてのディスカッションをしています。例えば、これまでは資料請求を行ったユーザーを中心に架電していたところを、「Chatwork」での行動履歴を元にアプローチする、という取り組みも進めていますね。今後は、機械学習を使ったアプローチで「Chatwork」のアクティブ率をスコア化して、その数値が商談の成功率にどのように影響するのか、検証したいと考えています。

――Chatworkでの仕事の面白さは、どのようなときに感じますか?

私たちがまだ知らない、ビジネスチャット上でのユーザーの行動に触れたときですね。コミュニケーションアプリならではの、奥深さは間違いなく存在しています。仕事中に常に活用するものであり、相手があって成り立つものだから、人間としての特性や面白さが詰まっている。それらをデータサイエンスの技術を活用することで解像度高くとらえることができれば、全く新しいビジネスが生まれる可能性は十分にあります。ただし、やみくもにユーザーの行動を可視化するのは、効率的ではありません。現場メンバーやユーザーの話に耳を傾けながら、筋の良い仮説を立案することが大切です。ビジネス本部内にデータチームが所属しているからこそ、仮説をスピーディに検証できる。ここまで恵まれた環境は、他にはあまりないと思いますね。

データの力で社内を連携できれば、おのずと日本の中小企業のDXが加速していく

――最後に、今後の展望を教えてください。

Chatworkへの転職時の動機と関連しているのですが、組織のケイパビリティを他の領域にも広げていきたいですね。この半年で、BIにとどまらずCRMの領域にも関わらせていただくことになりましたが、AIや機械学習の研究や、データを収集・管理するデータエンジニアリング領域にも、専門スタッフにジョインいただきながら踏み込んでいく。さらに、現状は別組織ですが、プロダクト側のデータ分析チームとの連携を強め、全社横断でデータ分析を加速させたいですね。

そして、2025年以降に「ビジネス版スーパーアプリ構想」が進んでいきますが、そのタイミングも大きな節目になるでしょう。データ量が加速度的に増えていくことで、新規事業を立ち上げる際の基礎データも提供できますし、グロース支援を行う機会も確実に増えます。データ分析の力で社内の連携を推進し、他の組織も強くなれば、おのずと日本の中小企業のDXにつながっていく。Chatworkでのデータ活用には、それだけの可能性があると確信しています。

私自身、ずっと人材系のサービスに携わっていたこともあり、Chatworkには採用のプラットフォームとしてのポテンシャルが眠っているとも考えています。人を集めたいが、限られた採用費しか掛けられない中小企業は非常に多いです。Chatworkに声を掛ければ、希望に合致した人材を割り出して、自動的に紹介してあげられるような世界観ですね(笑)。中小企業のあらゆるビジネス上の悩みを、データの力で解決する。そんな未来をより早く実現するのが、現在の私自身のミッションです。

 

*2021年9月末時点(2022年6月末時点ではユーザー数534万人、導入社数36.5万社以上)
**当社依頼による第三者機関調べ、2021年10月調査、n=30,000(2022年3月調査では17.9%)

撮影場所:東京オフィス(WeWork 日比谷FORT TOWER)