Cha道

Chatworkの「人」「組織」を
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Webデザインや人間中心設計、アクセシビリティ。すべての経験と知識がChatworkの業務に結実している。

Chatworkのプロダクトデザイン部は、プロダクトの使い勝手やユーザー体験を向上させるためのデザインに取り組む組織。この部署において、UI設計やデザイン基盤チームの立ち上げ・運営などを担っているのが守谷絵美です。守谷はWeb制作の領域で約10年の経験を積んだ後、Chatworkへ入社しました。そして社内でデザイン業務に従事するだけではなく、人間中心設計を学んでプロダクト改善に活かしたり、アクセシビリティへの取り組みを進めたりと、幅広い活動を続けているのです。今回はそんな守谷の“デザインとの向き合い方”について、キャリアをたどりながら紐解いていきます。

■プロフィール

守谷 絵美
プロダクト本部 プロダクトデザイン部

2003年よりWebの制作にデザイナーとして関わり、2015年頃より主軸をUIデザインに移し活動している。社内ではUI設計やアクセシビリティの啓発活動、デザイン基盤チームの立ち上げ・運営をリード。ウェブアクセシビリティ基盤委員会 副委員長。

Webの世界の奥深さに感銘を受けた

――今回のインタビューでは、守谷さんのキャリアを過去から現在まで順にたどりつつ、その過程で“デザインとの向き合い方”がどのように変化したのかを伺います。まずは、2003年に入社されたという、Web制作会社時代のことをお話しください。

私は学生時代に、DTP(Desktop Publishing:書籍や新聞といった印刷物のデザインや印刷用データの制作)のデザイナーを志望してデザインの勉強をしていました。2000年前後の頃ですね。その後、結局はDTP制作の会社ではなくWeb制作会社に就職しました。

当時のWebサイト制作は、紙のパンフレットなどに記載された内容を、そのままインターネット上に載せるだけのような仕事が多かったです。あくまで、DTPの地続きにある仕事のひとつとして、Web制作の仕事が存在していました。その頃はFlashの技術も流行していましたが、その多くがそれまで平面的だったWebサイトを動的・近未来的な見栄えにして、見る人の感覚に訴えかけるために使われていました。Web制作の主たる目的が、外見を良くするためのビジュアルデザインという時代でした。

その後にCMSが登場すると同時期に、テーブルレイアウトからCSSレイアウトへの実装手法の変化がありました。それまでは「紙のパンフレットをWebに載せただけ」だったものが、データ構造やCSSのコンポーネント構造で多層化された、とても奥深い設計に変わったんです。Webの世界はなんて素晴らしいんだと、感銘を受けました。

それらの構造化・多層化された概念はデザインプロセスのうちの情報設計にあたり、その重要性に気づいたことは、自分自身のデザイン観に大きな影響を与えました。それまでのWebデザイナーの仕事は、サイトマップを作るディレクターの指示のもと、自分が担当するページの“見た目”だけを整えることのように感じていました。でも、情報設計まで含めた、より広義のデザインまでデザイナーが担うべきだと確信できたのは、自分のキャリアにおいて大きな意義がありましたね。

「人が長く使うもののデザイン」に携わりたい

――その後、別のWeb制作会社に移られて、さらに2008年からは別のデザインプロダクションで働かれたと伺っています。

デザインプロダクションには丸5年在籍して、Webサイト制作に携わりました。会社自体は、クライアントのプロモーション全般を請け負っていたのですが、大きな案件になると私の主担当領域はWebサイトのビジュアルデザインのみでした。

この会社では、数多くのことを学べたように思います。小さな会社だったこともあり、高度な技術を持つマークアップエンジニアやバックエンドエンジニアと協働する下地が作れました。また、小さめのWebサイト構築の場合は、ディレクションを含む顧客のヒアリングから実装直前までを担当できました。それに、情報設計に重きを置けるようになったのもこの会社に移ってからです。社外との交流や勉強会の企画なども積極的に受け入れる社風のため、最新のWebの知識を得やすかったという利点もありました。

ただ、働き続けているうちにだんだんと自分の仕事に閉塞感を覚えるようになりました。ひたすらデザインを作っては納める毎日で、エンドユーザーからのフィードバックが自分には見えづらい。徐々に「自分はいったい誰のために何を作っているんだろう?」という気分になっていきました。このサイクルを続けた先で、自分は何を成し遂げられるのかと疑問に思うようになってしまったんです。

もちろん、決して会社は嫌ではなかったですし、受託という仕事の価値も納品の楽しさもわかっていましたが、「一度立ち止まって、本当に自分がしたいデザインが何なのかじっくり考えよう」と決めました。会社を辞めて充電期間を設けた結果、「人が使うもののデザイン」に携わりたいと考えるようになっていきました。

実は充電期間に入る少し前に、Chatworkへの入社のきっかけになるような出来事があって。私は当時からデザイン関係のセミナーやイベントなどに何度か登壇していたのですが、その受講者のなかにChatworkのデザイナーがいました。たまたま私が前の会社を辞めるタイミングでその人にご飯に誘われたんです。食事の場で「実は、来週に会社を辞めるんです」と話をすると「Chatworkもデザイナーを募集しているので、良かったら受けに来てください」と情報をもらえました。

――これがChatworkとの接点になったのですね。充電期間は何をされていましたか?

本当に何もしていないときは週に3回映画館に行ったり、デザイナーの友人と一緒に食事をしたりしていました。そんな日々のなか「どうすれば人が使うもののデザインに携われるだろう」と考えていましたが、なかなか答えが出せなくて。そんな折に、ふとあることに気づきました。

その頃にはProgressive Web AppsのようにWebの技術を活用したWebサービスの設計技術や、スマホアプリとしてプロダクトを構築する潮流が生まれていました。この領域ならば、それまで培ってきたWebの技術や知識を活かしつつ、自分のやりたいデザインができるのではないかと思えたんです。また、私はもともと人と人をつなぐことが好きでした。それならば、人と人との懸け橋になるチャットツールを提供する会社は良さそうだと思ったのが、Chatworkに入った経緯ですね。

人間中心設計やアクセシビリティを学び、デザインと向き合う

――Chatworkへの入社後にさまざまな取り組みをされていますが、業務外の活動として2016年にAIIT東京都立産業技術大学院大学の人間中心デザインコースを履修されたと伺っています。この学問を学ばれた理由を教えてください。

自分の周りでHCD(Human Centered Design:人間中心設計)という単語をよく聞くようになったのがこの頃でした。私は前職時代にWebデザインの経験を10年積みましたが、サイトのデザインスキルとプロダクトのUI設計スキルはやはり全く別物ですし、UXに関する知識が足りていない自覚がありました。体系的に人間中心設計を学ぶことができたら、ユーザーのことをもう少し理解したうえでデザインができると考えました。

この履修コースは、人間中心設計というかなり広い領域のうち、一番初めのユーザー要求探索・設計手法に重きを置かれたカリキュラムでした。人間の探求から始まり、課題が何なのかを見極めたうえで、課題解決の手段を考えて、何を作るべきなのかという全体像を俯瞰的に考えていく。その一連の調査から設計までを全体的に学ぶことができました。

――人間中心設計を学んだことは、Chatworkでのデザイン業務にどのような影響を与えていると思われますか?

先ほど述べた一連のUX設計の流れを一通り理解したうえで、業務に活かせるようになったのは利点です。さらに言えば、私自身の得手不得手も把握できるようになりました。というのも、いろいろやってみた結果、私は調査や分析などの仕事には、それほど向いていないと気づきました。それよりも、UI設計からシステムへの組み込みあたりの領域のほうが得意ですし楽しめます。前段の工程は、それが好きな人や得意な人がやればいい。自分の得意分野を踏まえて、携わる仕事を決められるようになりました。

――守谷さんの活動内容を示す他のキーワードとして“アクセシビリティ”がありますが、この領域に注力するようになった経緯についてもお話しください。

もともと私がアクセシビリティという概念を扱い始めたのは、Chatworkに入社するよりずっと以前の2000年代前半頃からです。アクセシビリティとデザインに関する記事をブログで書いたり、デザインのイベント登壇でアクセシビリティに関係する内容の発信をしたりしていました。

ずっとライフワークのように取り組んできていましたが、Chatworkでも2016年頃から個人活動ではなく会社として公式に動ける形になりました。2017年当時、国内の業務サービスとしてはいち早くアクセシビリティ方針を策定できました。ありがたいことに2021年からはウェブアクセシビリティ基盤委員会の副委員長を務めさせてもらっています。

私は、なんでもかんでもロジカルに答えを出したいタイプです。「デザインには答えがない」と言われることが多いですが、そんな前提があるなかでも要求に対する正解を設計に反映できるのが、アクセシビリティでした。アクセシビリティは人間工学などの学問がベースになってガイドラインがきちんと作られています。それに沿ってデザインやビジュアライズをすれば、誰にとっても使いやすいプロダクトを作れるのが大きな魅力です。

「Chatwork」のデザイン基盤全体を整備していく

――Chatworkで取り組まれた業務のなかで、キャリアのなかでも特に意義があったと思われる仕事があれば、ピックアップしてお話しください。

私は2013年にChatworkへと入社したので、今年で10年目になります。長い間働いていることもあって、デザイン関係だけではなくエンジニアリングのバックエンド方面の知識もある程度身につけることができました。

私の「ロジカルに答えを出したい」という趣向もあって、エンジニアと一緒にドメインモデルの専門的な議論ができているのは、自分の強みを発揮できている部分です。また、当時さまざまな理由により完成までたどり着けなかったのですが、2年ほど前にデザインシステムに取り組んだことも自分のなかで印象に残っています。その経験と知識は今後もさまざまな業務に活かせるだろうと思います。

あとは、まだ動き出したばかりですがデザイン基盤チームを先日立ち上げました。これまでの「Chatwork」では、複数のデザイナーや、ときにはデザイナーでない人たちがUIの増改築をくり返してきました。その影響で、プロダクトの全体的なデザインの統制がとれていない部分や、技術的負債が蓄積して改修に大きな工数がかかってしまう部分が出てきています。だからこそ、何かしらの意志や思想に基づいた設計の最適化をすることが必要になっています。

そこでデザイン基盤チームでは「Chatwork」で扱う情報の全体像を見える化したり、デザイナーやエンジニアが新しいUIを作成・検討する際の試行錯誤の時間的負荷を減らすための設計の規律やルールを整備するなど、デザインプロセスにおける全体的な基盤整備を目的としています。デザイン基盤チームの立ち上げは、私からプロダクトデザイン部のマネージャーである茂木さんにお願いして実現しました。

デザイン基盤が整うことで、情報設計の適正化やUX設計と齟齬の起きない秩序立ったUIの構築ができると考えています。実現すればプロダクト内の一貫性も出ることにより、利用するユーザーの負担が劇的に減るはずですし、社内のメンバーがUIを設計する負荷も減るはず。そのための地盤固めを徹底的にやっていく予定です。

デザイン基盤チームは、デザイナーだけではなくエンジニアも一緒に活動しています。エンジニアが扱う情報も整備しつつ、デザイナーがそれをどうすればUIに反映できるのか、新しいUI設計をどのように実装するのかを、一気通貫で考えていくことができるチームです。当時完成しなかったと先ほど言ったデザインシステムの再構築も、このチームで担っていく計画をしています。

――これから、Chatworkのデザインプロセスがさらに改善しそうですね。では最後に、今後Chatworkで働くデザイナーに向けてメッセージをお願いします。

私が今回話したように、さまざまなチャレンジができるのがChatworkという会社ですし、プロダクトデザイン部という部署だと思っています。それに、メンバー同士が気軽に情報交換できる雰囲気作りができていますし、各種のドキュメントも信じられないくらい充実しています。

また、プロダクトデザイン部には各領域に強みを持つデザイナーが集まっているので「自分の得意な領域に集中する」「自分が得意でないものは他の専門家に任せる」といった選択と集中ができます。協力体制も整っているので、何か強みを持ったデザイナーさん、これから何かを伸ばそうとしているデザイナーさんは、ぜひプロダクトデザイン部にいらしてください。

撮影場所:東京オフィス(WeWork 日比谷FORT TOWER)