地方の出版社の営業職、B.LEAGUE(以下、Bリーグ)のデジタルマーケティング担当を経て、Chatworkにジョインした北川。BtoBマーケティングやセールスオペレーション最適化に関する様々な施策を、企画・実行してきました。そして「2022 Adobe Marketo Engage Champion」を受賞。これまでのキャリアや、マーケターとしての仕事のこだわりについて、根掘り葉掘り聞きました。
■プロフィール
北川 峻
ビジネス本部 カスタマーエクスペリエンスユニット
カスタマーマーケティング部 オペレーションチーム チームリーダー
静岡県出身。小学校から大学まで、バスケットボールに明け暮れる。大学を卒業し、2010年4月、フリーマガジンやWebメディアを展開する「しずおかオンライン」に入社。住宅系サービスの営業職として、支社長も務める。2014年2月、人材系のWebサービス事業を運営する「リブセンス」に転職し、営業や営業企画を担当。そして、2016年1月、Bリーグの運営法人にデジタルマーケティング担当としてジョイン。2019年1月、Chatworkへと転職。カスタマーマーケティング部のチームリーダーとして、様々な施策を実施している。
「バスケ大好き」一家に生まれ、高校は推薦で入学。社会人リーグにも所属した
――まずは、幼少期の原体験を教えてください。
出身は静岡県の島田市です。信号が1つもない村のような地域で過ごしました。バスケットボールが好きな家族でした。両親も昔からやっていて、兄と姉も地元チームでプレイしていたこともあり、私も小学2年生から始めたのです。高校はバスケ推薦で藤枝東高校に進学し、大学時代も社会人リーグに所属。ずっとバスケに打ち込んでいました。このバスケとの関わりが、社会人になってからのキャリアに大きく影響します。
――ファーストキャリアはどこから始まりましたか?
大学は理学部の化学科に通っていたのですが、日々の地道な実験が肌に合わず、華やかな世界に行こうとマスコミ業界を志望しました。ずっと田舎に住んでいたので、都会に出たかったこともあり、東京の出版社や放送局を受験したのですが叶わず。地元の出版社の「しずおかオンライン」に就職しました。バスケの社会人リーグの先輩に誘われたことがキッカケです。
――最初の就職は「バスケつながり」だったのですね。しずおかオンラインでは、どのような仕事をしていましたか?
住宅系のフリーマガジンの営業職です。工務店やハウスメーカーに営業をし、新築やリフォームの広告を掲載いただくことが仕事でした。静岡県の西部エリアを一人で任されて、自分で営業して記事も書き、効果検証も行っていました。一連の流れを経験できたのは、今の仕事にも活きています。「売る」がゴールではなく、「お客様の成功」がゴール。その姿勢を徹底すると、売上も伸びる。結果、1年目の上半期で、新規売上獲得数No.1の成果につながりました。
4年目で浜松支社長に抜擢。経営陣への提案が受け入れられず、気持ちが切れてしまった
――しずおかオンラインでの仕事は、その後も順調だったのでしょうか?
3年目からは会社として初の県外進出をすることになり、隣の愛知県の三河エリアを開拓することに。そのエリア担当を一人で担うことになりました。土地勘が全く無いですし、教えてくれる人も誰もいない。工務店やハウスメーカーのリストをつくって、しらみつぶしにアタックしていきました。「しずおかオンラインの北川ですが」と電話で挨拶しただけで、「静岡?ここは愛知県なんですが」と断られることもしばしば。実績が何も無いので、ビジョンを伝えるしかない。熱意だけで営業をしていました。
三河エリアでの立ち上げが何とか成功して、4年目に浜松支社の支社長も兼務することに。12名のメンバーのマネジメントも任されて、充実はしていたのですが、ある疑問を感じていました。浜松エリアでは、ある媒体の売上が伸び悩んでいたのです。読者ニーズと媒体のコンセプトがズレていて、競合も強かった。支社長として何とかしようと、現場のスタッフを鼓舞したのですが、なかなか業績は好転しません。媒体の立て直しを役員陣に何度も提案したのですが、当時の自分の力量では通すことができませんでした。
そこで気持ちが切れてしまったのです。社会人1年目から、新規顧客開拓や支社の立ち上げに奔走してきました。数多くの困難がありましたが、自分の努力次第で突破できた。しかし、自分の力だけでは何ともならない事態に直面してしまった。その状況を打破することができず、社外での活躍の場を求めて、転職を決意したのです。
リブセンスでは営業としての挫折を経験。人材系サービスの営業企画でリベンジを果たす
――そして、2014年にリブセンスに転職しましたが、その背景を教えてください。
生まれてからずっと静岡に住んでいたので、東京への憧れを持っていました。当時、リブセンスの村上社長は「最年少上場社長」と注目されていて、東京での転職先を探す中で興味を持ったのです。村上社長の著書を読み、メディアでの情報に触れて、「この会社しかない!」と決断しました。
――リブセンスでは、どのような仕事を担当しましたか?
住宅関連のスキルを活かして、不動産情報サイトのセールス部門の立ち上げに携わりました。現在、この事業は他の会社に譲渡されていますが、当時はまだローンチしたばかりのタイミングでした。前職で営業として実績を残し、新拠点を立ち上げて支社長まで務めたので、「すぐにでも活躍できるだろう」と思っていたのですが、甘かったです…。
地方の出版社と、東京の成長著しいインターネット企業では、仕事の進め方や密度が全く異なりました。まず、打ち合わせについていけません。専門用語が猛スピードで飛び交う中、その内容を把握するのも難しく、一つひとつの言葉の意味を恥を忍んで質問していました。さらにPCもまともに使ったことがなかったので、ExcelやPowerPointの操作方法から学んでいました。そのような状況では、まともにワークすることができず、結局、セールスチームは解散に。本当に悔しかったですね。自分が静岡で培ってきたものは何だったんだろうと。積み上げてきた自信を全て失いました。
チームが解散になったので、上司から異動を言い渡されました。「不動産サイトのマーケティングか、人材領域の営業企画か。どちらかを選んでくれ」と。営業でバリューを発揮できなかったことが悔しくて、後者を選択しました。アルバイト求人サイトの大手顧客のリード獲得を担当したのですが、もう二度と悔しい思いはしたくなかったので、休日も勉強に充てていましたね。
なんとか食らいついて、イベントへの出展、新たなプロモーションチャネルの開発、営業ツールの開発、組織を横断したKPIのダッシュボード化などを進めました。結果として、多くの大手企業の開拓に成功。挫折をバネにして、異業種の仕事に捨て身でチャレンジできたのが大きかったですね。必死になれば、スキルの壁を越えられることも学びました。
Bリーグの立ち上げを、デジタルマーケティングで成功に導く
――そして、リブセンスを退職して、Bリーグの立ち上げ時のマーケティング業務に関わることになります。このときの経緯を教えてください。
営業と営業企画の経験を積んできて、さらにスキルの幅を広げるために、「高度なマーケティングの現場で自分を鍛えたい」と考えていました。社内でその機会を探したのですが、周囲にはプロフェッショナル人材が多く、ポジションを得るのが難しかったので、転職活動を始めたのです。ふとしたタイミングで、Bリーグの運営法人に勤めている、高校バスケ部の先輩から声を掛けていただきました。ちょうどBリーグの立ち上げの前年のことでした。
――Bリーグでは、どのような仕事を担当しましたか?
日本のバスケットボールの新たな歴史を創る。その想いを胸に、日々の仕事を進めていました。デジタルマーケティング全般を担当したのですが、SNSを活用した施策や、チケット販売プラットフォームの開発、チケットアプリの開発にも携わりました。全て未経験の仕事でしたが、何とかやり切れましたね。ほぼ全ての試合のチケットが完売しましたし、日本のアリーナスポーツとして最大級の観客を集めることもできました。協力者を巻きこむ際に、しずおかオンラインでの営業経験が活きたと思っています。
一方で、難しいこともありました。チケットをデジタル化することで膨大な顧客データを集め、マーケティングの新境地を開拓したかったのですが、スポーツ法人の特性上、独立採算で動いている各クラブで足並みを揃えることが難しく、実現できませんでした。今でも悔しい思いは残っています。ただ、開幕戦は理屈抜きで感動しました。コートの床に敷き詰められたLEDがキラキラと光って、圧倒的に華やかな世界が現れ、選手達が躍動している。涙が出てきましたね。バスケットボールが野球やサッカーと肩を並べるスポーツになることが夢でしたから。
同世代のIT業界のマーケターに追いつくために、Chatworkへ。
――そして、2019年1月、上場前のChatworkにジョインします。Bリーグでの仕事は充実していたのに、なぜ、転職したのですか?
端的に言えば、同世代のIT企業のマーケターに後れを取っていると感じたからです。スポーツビジネスは華々しい側面もありますが、内部の調整には難しい面もある。クラブチーム全ての利害を損なわない形で、理想の施策を実現するのはかなりハードルが高かった。マーケターとしてアイデアを実現できないのは、自分の成長を止めるという意味でも辛かったのです。面白い施策をどんどん実現している同世代のIT業界のマーケターに追いつくために、自分で意思決定できる環境に身を置こうと。そこで、Chatworkを選んだのです。
また、Bリーグ時代に、チャットアプリを導入して業務が一気に効率化したのも衝撃的でした。働き方を変えられる可能性を感じたのも、Chatworkに興味を持った理由の一つです。面接で現・副社長執行役員CNOの山口さんとお話して、「ウチはまだ社内の組織が未完成だから、整備して欲しい」と言われたのも大きかった。自分の手で新しい価値を生み出せる予感がしたので。
Chatworkに入社して3年半が経ちましたが、それまでのどの仕事よりも濃厚な時間を過ごしました。Web広告、メルマガ、セミナー、展示会への参画など、BtoBのリード獲得の全てに絡みましたから。さらに、セールスチームの業務改善にも尽力し、この4月からはChatworkの活用度、ARPA(Average Revenue per Account:1アカウント当たりの平均売上)の向上を目指すカスタマーマーケティングを手掛けています。まさに「ユーザー・売上獲得のハブ」のような役割を担っていて、今でも本当に濃い毎日を過ごしています。
コロナ禍での「無償提供」。社会の役に立つマーケティングもある
――この3年半の中で、印象に残っている仕事を教えてください。
1つ目は、新型コロナウイルスの感染拡大が起こって、緊急事態宣言が出されたときの対応です。世の中で「出社」ができなくなったタイミングで、Chatworkが何ができるかを徹底的に考えました。結果、テレワーク・リモートワークを推進する企業様をサポートするために、有料プランの「1ヶ月間の無償提供」をすることに。先が見えない状況でしたが、ただただ「困っている企業を助けたい」「働いている人たちに何かをしたい」という想いでした。私自身は、企画の立案、実行部隊のとりまとめ、プロモーションを主に担当。社会情勢や競合の動きを見ながら、調整するのは大変でしたが、Chatworkとしての社会的な責務を果たそうと必死でしたね。
もちろん、急な施策でしたので、反省点もあります。多くの皆様にChatworkを使ってもらえたのは良かったのですが、受け皿を担うサポート部隊が追いつかず、迷惑をお掛けしてしまいました。ただ、お客様向けのアンケートで、「出社はできない中で何とか業務を回すことができました」「コロナを機に働き方が変わりました」との声も多くいただきました。嬉しかったですね。「ああ、社会に役立つマーケティングもあるんだ」と初めて実感しました。
ChatworkとMarketoを連携した仕組みを独自で開発。「2022 Adobe Marketo Engage Champion」を受賞
――そして今年、アドビ株式会社(以下、アドビ)のMarketoを活用した取り組みで、「2022 Adobe Marketo Engage Champion」MarTech of the Yearを受賞されました。これについてはいかがでしょうか?
Chatworkで培ってきたことの集大成としての受賞ですので、誇りに感じています。Marketoは、グローバルでも代表的なマーケティングツールで、その先進的な活用手法をChatworkで実現したことが表彰されました。
「リード獲得→インサイドセールス→フィールドセールス」この一連のパイプラインを作るのがマーケターの仕事です。「この流れをいかに効率化していくか」にとどまらず、「どうすればセールスチームが気持ち良く働けるか」「どうすればお客様に適切なフォローが提供できるのか」を、突き詰めたことが評価されたのです。具体的には、MarketoとChatworkを連携させて、適切な架電タイミングと架電時に必要な情報を通知する仕組みを作りました。加えて、セールスに必要な顧客データをまとめたシートが、自動で出力される仕組みを構築。この2つの合わせ技によって、セールスの生産性が大幅に向上しました。
そして、もう1つ、別の仕組みも実装しました。Marketo、Salesforce、Treasure Data、Redashの各ツールを連携。マーケティングとセールスのKPIと、全ての施策効果を見える化したダッシュボードを、自分でSQLを書いて構築しました。どの施策がどれくらいのリード獲得につながったのか、誰もがいつでも見られる仕組みです。施策の比較ができるので、マーケティング活動の最適化につながりました。
――マーケターと言うより、もはや業務設計やセールスDXの仕事ですね。
そうかもしれません。「モノを売る」のではなく、「売るための仕組みを作る」仕事だったので、アドビにも高く評価いただけたのだと思います。これまでの「売上獲得のハブ」になっていた経験が活きました。それぞれの部署での問題点が把握できていましたし、深いヒアリングや壁打ちにも協力してもらえた結果、新たな仕組みを導入しても、すんなりと馴染んでくれた。社内での人と人とのつながりがあったからこそ、最新テクノロジーを活用できたのです。
セールス主体から、プロダクト主体へと、マーケティング活動を進化させる
――この4月から、カスタマーマーケティング部に異動しました。現在のメイン業務を教えてください。
現在、Chatworkは「Product-Led Growth(PLG)戦略」を中期経営計画における1つの柱として掲げ、事業成長を図っています。セールスだけではなく、プロダクトの特性を活かしてグロースさせる戦略です。そこに紐付く形で、カスタマーマーケティングチームは、新規ユーザーの獲得ではなく、既存ユーザーの活用度、ARPA向上に注力しています。つまり、会員獲得後から有料化までの一連のファネル管理を行うのがミッションです。この数ヶ月間で、既存のセールスグロースの手法をPLG戦略と掛け合わせた、Chatworkの独自手法を構築・実装することができました。
また、2024年に「中小企業No.1ビジネスチャットになる」という中期経営計画を掲げています。目標達成のためには、売上高を毎年40%増のペースで成長させることが必要です。2021年は無事に47.9%増で達成できたのですが、売上のグロスが大きくなる分、これからが正念場だと感じています。個人的には、目標が高いのは大歓迎。否が応でも新しい施策を実行しなくてはならないからです。これまでも前例の無い目標に向き合ってきましたし、そこでもがき苦しむことで自分自身が成長できたのは間違いありません。
Chatworkをもっともっと普及させて、世の中の生産性を高めたい
――最後に、今後のキャリアはどのように考えていますか。
Chatworkに3年半ほど在籍して、マーケターとしての専門性を伸ばし続けてきました。今後もスペシャリストとして同じ路線を突きつめるのか、静岡時代のようにマネージャーとして人を動かす道に進むのか。自分の中で答えは出ていません。ただ、多くの働く人たちが、ビジネスチャットを使いこなして、生産性高く仕事をしている世の中を見てみたいのです。現状の普及率は17.9%*にとどまっており、まだまだビジネスの中心となるコミュニケーション手段にはなっていません。バスケットボールがメジャーになりきる前に、私はBリーグを後にしましたが、Chatworkではその世界観を実現したいという想いはあります。
そのためにも、まずは自分のチームにもっと人を増やしたい。現在のチームは、私も含めてたった2名で回しています。このままではスケールが難しいと感じます。最先端のマーケティング施策を、大きな裁量のもとで進めてくれる人に、仲間に加わって欲しいのです。Chatworkには参照できるデータが膨大にあるのですが、まだまだ未着手の部分も多い。そして、今後はビジネスチャット以外の様々なサービスも立ち上がっていきます。新しい仲間と一緒に、新しい手法にもどんどんチャレンジしていきたいですね。新しい価値を社会に普及させる、その仕組みを作ることが、マーケティングの仕事の醍醐味だと思っています。
*当社依頼による第三者機関調べ、2022年3月調査、n=30,000
撮影場所:東京オフィス(WeWork 日比谷FORT TOWER)